12人が本棚に入れています
本棚に追加
シュウの嫌いな人
もう、誰かにバレることを考えずにキライへ依頼ができると思うと、胸が高鳴った。
三番目に殺してもらうのは、先生だ。
正確に言うと、クラスの担任。こいつは先生失格だと思う。
僕がいじめを受けているのを知っていながら、何もしない。強いていえば、朝の会で軽く「ダメだぞ」なんて注意するだけ。
だから学校には、僕の味方が一人もいない。
本当に腹が立つ。
いつもニコニコと、ヘラヘラと笑ってるやつらは、本当に許せない。
すぐそばに、笑うことも泣くこともできないくらい苦しんでる人間がいることを知っていながら、平気で見ないフリをする。結局、あーだこーだ言ってもみんな、自分が幸せならそれでいいのだ。なら最初から、僕みたいなやつを助けるようなキレイごとを並べ立てるのをやめてほしい。
……僕を優越感か何かの材料にするために、心と体をいたぶって笑ってるようなやつらよりは多少マシかもだけど。
ああ、考えてたら余計イライラしてきた。
早く、ゴミは掃除してもらわなきゃ。
月曜日からそんなことを考えながら、下校中キライへの依頼を済ませ、重い体を孤児院へと引きずるように運ぶ。
「——あ、ねえ君」
途中、男の人に声をかけられたけど、無駄な力を使いたくないので、無視をして進ん——。
「ちょ、待ってよ」
……腕を掴まれてしまった。仕方なく振り向く。
「ちょっとさ、人を探してるんだけど」
そう言って笑いかけてきた男の人は、キライの通ってるのと同じ中学校の制服を着ていた。胸元に付いている名札でもわかった。
いかにも苦労せずに生きてきましたみたいな顔をしてる。つまり、俗に言うイケメンというやつだ。髪も茶色く染めていて、自分に自信がありそうな雰囲気も漏れ出ている。僕に躊躇いなく声をかけたところからして、周囲にも恵まれているのだろう。嫌いなタイプだ。
……まあ、これはあくまで僕の勝手な憶測でしかないけど。
「ここら辺でさ、髪が白くて……えっと、身長は君より頭一個分くらい大きくて、美人の一中の子、見なかった?」
「……えっと」
白髪で、身長が頭一個分僕より高くて、第一中学校。……絶対キライのことだな。と思いつつ、「見なかったと思いますけど」と返す。……なんならついさっき会ったばかりだけど、わざわざ親切にしてやる意味もないから。
「そっか、ごめんね呼び止めちゃって。それじゃー、気をつけて」
男の人は手を振って去っていった。
あの声、話し方、明るい茶色の髪。それと、興奮を無理に隠したような表情。多分あの人は、キライの恋人だろう。僕が嘘を吐いたのには、そういう理由もある。
キライはあの人があんまり好きじゃないみたいだから。……恩返しってわけじゃないけど。
余計なお世話だったらどうしよう……いや、僕の知ったことじゃないか。
——さて。次は、誰を殺してもらおう。
長くて重い、孤児院までの道を少しでもマシなものにするために、僕はまたそんな思考に立ち戻る。
僕にとって唯一楽しみにできることは、それだけだから。
最初のコメントを投稿しよう!