シュウの嫌いな人

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 担任のいなくなった教室は、うわさ話で充満していた。一人目の時もそうだったけど。  クラス内で二人も行方知れずなのだから、一人目の時よりも危機感があるようだった。  まだ三人とも死体が見つかっていないので捜索が続いているらしいけど、それは全部無駄で、いくら探したって生きた人間は見つからないということを、僕とキライだけが知っている。  ……それにしても、キライは一体どこに死体を隠してるんだろうか。 「——死体でございますか、申し訳ございません。それに関しては……えっと企業秘密で……」  時間を飛ばして下校中、いつもの交差点で僕の問いにキライはそう答えた。 「……企業だったの?」 「あ、いえ……。と、とにかく秘密です」  小学生に間違いを指摘されたからか、恥ずかしそうにしている。それを誤魔化すように、キライは続けた。 「……ただ、誰かに見つかることは絶対にありえませんので、ご安心ください」 「そうなんだ」  絶対か……。 「はい、こちらといたしましても、殺した事実はなるべく隠したいので」 「そうなの?」 「わたくしの殺人は誰にも咎められない、とは申し上げましたが、その罪が消えるのではなく、罪に対する罰が消えるだけなのです」 「……?」  それはつまり……どういうことだろう……? 「わからなければ、それでも構いませんが……今後も殺人は隠密に致しますので、お気になさる必要はございません」 「……わかった」 「それでは、ご依頼の方をお聞きしてもよろしいでしょうか」 「ああ、うん」  隣の席の女子の名前を言って依頼を済ませ、いつも通り別れようとすると、キライが引き止めた。 「シュウ様、お待ちください……。明日は、放課後お会いすることができないのですが、いかが致しましょう。朝でも構いませんが……」 「わかった、朝にする」 「了解しました」  そう言って、今度こそ別れた。  何か予定があるらしいが、考えてみれば、今まで放課後に普通に会えていた方がおかしかったんじゃないか、とふと思った。  この前、中学校説明会で部活は全員入らないといけないとか聞いたし、部活で忙しくて本当は小学生の下校時間には会えないはずなんじゃ?  キライに関して、僕は知らないことが多いと、改めて思った。だけど知る必要はない。キライと僕の間にあるのは殺し屋とその客という関係だけだから。  ……いや、むしろ知りたくないかもしれない。僕はキライを、殺し屋としてだけ見ていたい。  もし、あの人を一個人として知ってしまえば、僕は依頼ができなくなるだろう。殺し屋だったキライがただの一人の人間になってしまうから。何の感情もない道具として使うからいいのに。  ——だけど、残念なことに、殺しについて熱弁してるところとか、恋人と話してるところとかをもう見てしまっているから、もう僕の中でかなり人間味が出てきてしまっている。  それと、一番問題なのが、実は僕は小学校をあと二週間ほどで卒業するんだけど、その後入学する中学校が、どうやらキライと同じ学校らしいこと。  キライが何年生かにもよるけど、三分の二の確率であの人は僕の先輩になる。そうなると、もちろん今よりも接点は増える。  そう考えると、余計に中学への期待のようなものが薄れる。  まあ、学校という地獄のような場所で僕が適応できる気なんて最初から全くしてないけど。
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