殺し屋の仕事

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「——では、一番最初に削除致す方をお教えください」 「あ、うん……」  言われたとき、たくさんの人の顔が頭に浮かんだ。 「一番……最初は……」  誰から、殺してもらおう……。  親、だろうか。僕の人生をめちゃくちゃにして、もしかしたらこれからも何か害を及ぼしてくるかもしれない、憎い親。正直死刑にして欲しかった。  でも、親が死んだって現状はあまり変わらないだろうから、もっと後に回すべきかもしれない。  ……だとすると、クラスの誰かだ。  それなら、クラスのリーダー兼いじめの首謀者の、がいいだろうか。 「じゃあ——」 「シュウ様」 「う、うん?」  僕は少し動揺した。  遮ってまで伝えたい内容が、殺し屋さんの方にあるとは思っていなかったから。 「もし、学校等でシュウ様と深く関わりのある方を消したいのならば、それはもっと、後にしておいた方がよろしいかと存じます」 「……なんで?」 「人が一人消えれば、その方の消失理由を探るというのが人間でございます。そうしたとき、シュウ様が疑われる場合がございますゆえ、わたくしはおすすめできません」 「そっか、たしかに」  盲点だった。  中学生って見かける度に変なことしてるイメージがあったけど、案外頭は良いらしい。……いや、この人が特別なのかな。殺し屋なんて、普通の人にはできないだろうし。  でも、そしたらどうしようかな。  と、考えてみたところで、ある人の顔が浮かんだ。  直接は何もしてこないけど、実は、首謀者のあいつにいろいろと吹き込んでいる。直接関わらないことで自分が被害を受けなくて済むし、だけど間接的には関わってるから、クラス内でそこそこの地位を確保できる。そんなずるい奴の顔が。  でもそいつには、そういうずるさはあっても賢さはないようで、結局裏でいろいろと吹き込んでいるのがこうやって僕にバレている。本人やその周囲はまだバレてないと思っているらしいのでこの場合は都合がいい。  ——ああ、いつかの復讐のため、一応全員の名前を覚えておいてよかった。  翌日。  学校に行ったら、ちゃんと殺し屋さんに頼んだ人が消えていた。  先生は、そいつが学校に来ない理由を、「行方不明だから」と言っていた。どうやら死体はまだ見つかっていないらしい。捜索中ということで、学校がいろいろと騒がしかった。  それにしても、もっとかかるものだと思っていたけど、仕事が早い。……次は誰を殺してもらうか考えておかないと。  ああ……ああ!  今日も僕はいじめを受けるけど、明日はまた、誰かを消せるんだ……!  人の命を、運命を、僕は握っているんだ。そう思うと、目の前のあいつらがひどくちっぽけな存在に思えてくる。  下るかもわからない、不確かな天罰を待ってなんていられない。鉄槌は、僕の判断で下すんだ。 「っふ……あははっ……!」  下校中、またアザが増えたのに、僕は久しぶりに笑った。いや、こんなふうに心の底から笑うのは、初めてかもしれない。  そんな僕を、いつの間にか現れていた殺し屋さんが、うっとりと眺めていた。 「——良い……表情でございます、シュウ様」  急だったので少しびっくりした。その拍子に笑みが引っ込んでしまったので、殺し屋さんは少し不服そうだった。 「え、えっと……ありがとう、ございました」 「いえ、こちらこそ。良質な憎しみをありがとうございました」  殺し屋さんは礼儀正しくお辞儀して、続けた。 「次は、どなたを削除致しましょうか」 「……あ、えっとその前に、念のため聞きたいことがあるんだけど」 「はい、なんなりと」  一応、本当に念のためだけど、聞いておきたかった。 「昨日頼んだ人、行方不明って聞いたけど、本当に死んだの?」 「ええ、確かに灯火を消しました。抜け殻はわたくしが所持しております。……お見せしましょうか」  灯火とか抜け殻とか、ちょっと独特な言い回しに違和感を覚えつつ、わざわざ嫌いな奴の死体を見たいと思うほど僕は物好きではないので、断った。  すると、殺し屋さんは何故か残念そうだ。  とりあえず、もうこの話はやめよう。 「そ、それで、次に殺してほしい人は、もう決めてるんだけど」 「……はい、どなたでしょう」  僕は、クラスのリーダーである……の兄の名前を言った。  いじめっ子のはいわゆるお兄ちゃん子だから、さぞ悲しむことだろう。もちろん、兄の方にも恨みはある。野球バットで何回か殴られたことがあるのだ。が頼んだらしいが、そんなことはどうでもいい。クズで邪魔なことに変わりはないから。 「……ああ、その方は、わたくしの通っている中学校の、三学年に在籍している方でいらっしゃいますね」  中学生なのは知ってたけど、殺し屋さんと同じ中学校だったんだ。 「……じゃあ、ダメ?」 「いえ、逆でございます」 「?」 「近い分、殺しやすいので手間が省けるのでございます」  何の感情もなく、殺し屋さんは言い、 「そっか。じゃあ、お願い」  また何の感情もなく、僕も言った。
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