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キライの好きな人
この前もそうだったが、“シュウ様”は歳の割に勘がいい。また、気づかなくて良いようなことに気付かれてしまった。
……情けないことに、嘘は苦手なのだ。こうなってしまえばもう、言うしかない。
「クラスでシュウ様と一番深く関わっていて、殺したい相手というのは当然、シュウ様にとって一番憎くて邪魔な存在なのでしょう」
「うん」
「だったら、最初にその方を殺してしまえば、もうそれで満足してしまって、私は必要なくなってしまうのではないかと……そう、思ったのです。申し訳ございません……」
「……そっか」
暫しの沈黙の後、少年は真顔のまま呟いた。
ああ、幻滅されただろうか。しかし、これが異常者の常である。そう理解しているから、今更何も思わない。……思わないはず。
「いいよ」
少年は不意に口を開いた。
「いいんだよ、キライ、謝らなくて」
少年の瞳は、暗かった。
「僕の殺したいあいつは、キライの言った通り一番最後に殺すことにする」
「それは、一体何故……」
「だってそっちの方が、あいつを不幸にさせられるでしょ? 周りの人がどんどん死んでいって、『もしかしたら、次は自分かもしれない』なんて思いながら、毎日を過ごすんだ。——あいつを一気に殺したらもったいないから、ちょっとずつ殺していく。キライのおかげで、もっといい方法を見つけられた。むしろ感謝したいくらいだよ」
小学六年生の、まだ幼いその顔に似合わない下卑た笑みを、少年は浮かべていた。
——その表情に、ときめくような高揚を覚える。
憎しみだ。憎しみが彼をこうさせたのだ。愛おしく、美しく、それでいて哀れで、薄汚い。
気を抜くと、彼を好きになってしまいそうなほど、憎しみの強い匂いがする。……でも、私が好きなのは彼ではなく、彼の持つ憎しみだ。そこを履き違えてはいけない。
しかし、これだけの強い憎しみを持つ者を、私は簡単に手放す訳にもいかない。
彼のような人間は、現代では極めて稀な存在なのだから。それに、この少年はまだ子供であるが故、これからさらに、肉体と共に憎しみも成熟していくだろう。
そのような人間の姿を、どうして見届けずに朽ちていくことができようか。
「——シュウ様」
彼を、うっとりと見つめながら、呟くように名前を呼ぶ。
首を傾げる彼に、私はいつも通り言う。
「次は、どなたを消しましょうか」
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