2018年

1/1
前へ
/13ページ
次へ

2018年

 気がつくと、俺の目の前に見慣れたパソコンが置いてあった。雑然としたデスクの上には資料の山。どこかで鳴り響く電話の音に、紙の擦れる音に、話し声。  嘘だろ。今日は休日だったはず。それなのに、どうして俺は会社にいるんだ。 「どうしたんですか? 大宮(おおみや)さん。一瞬寝落ちしてた?」  隣のデスクで小金井(こがねい)さんが笑っている。彼女は確か、先月寿退社していたはずなのに。 「なんで小金井さんがここに?」 「なんでって、私は四月に配属されてからずっとこの席ですけど?」  彼女は猫のような丸い目で(いぶか)しそうに瞬きをする。  小金井さんが配属されてきたのはいつだっけ。  パソコンのカレンダーを開いて、また驚いた。今日の日付が、スマホのカレンダーで見た三年前の2018年になっている。 「今日、残業できないんじゃなかったでしたっけ? 同窓会があるって言ってましたよね。居眠りしてたらヤバいですよぅ」  小金井さんは若いのにしっかり者で、ちょっとひとこと多いところがある。結婚したら絶対に旦那を尻に敷くタイプだと思う。  それはともかく、今日は同窓会なのか。あの日の昼間に戻ってきた……?  肌に訴える感覚は、ここが夢の中ではなく現実だと教えている。  現実だったら、仕事をしなくてはならない。  三年前の記憶を呼び起こす。俺がこの時任されていたのは、新しい経理システムの構築だ。  あの時散々手こずったおかげで、ゴールへの道筋をはっきりと思い出せた。その後の三年間の経験も身についている俺にとっては、もうそれほど大変な作業じゃない。  定時で終わらせられる。そして、同窓会へ。  何故かは分からないけど、あの日をやり直せるんだ。  待っていてくれ、翼。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加