2011年

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2011年

 八月の暑さで目が覚めた。  懐かしい、実家の匂いがする。大学を卒業するまでこの家に住んでいたんだ。  夏休みでもダラダラせずにいつも早起きできたのは、この古いエアコンのせい。本当に懐かしいな。  なんてまた目を閉じている場合じゃない。  俺はベッドから飛び起きて、枕元のケーブルに繋がった古い型の携帯電話を手に取った。  時間は午前6時34分。充電は満タンだけど、ケーブルを外したら触っていなくてもどんどん減っていくんだ。そして、夕方にはほとんどなくなってしまう。  翼から連絡が来たのは確か、夕方の5時頃だった。過去の俺はその時どこへ出かけていたのか思い出せないけど、このあと確実に出かけて、電池をなくす。    そうだ。その前にこちらから連絡して会っちゃえば……?  名案だと思い、まずは翼が起きているだろうと思われる時間まで二度寝した。  それから、昼過ぎまでは何事もなかった。  午前中に一度翼に電話をしたら、図書館で自習していると小声で言われてすぐに切られた。図書館にいるくらいだから、まだ翼に俺と会いたいと思わせる事件は起きていないのだろう。  午後はどこにも行かずに家で待機することにした。  受験勉強をしているフリをすれば親にも文句は言われない。冷えた麦茶と煎餅で籠城の構えを万端にしておく。  翼からの連絡はまだ来ない。  これからのたった数時間で何が起きるというんだろう。 「伯崇」  3時過ぎになって母が俺の部屋にやってきた。 「気分転換に、外へ行ってきたらどう? 夕飯の買い出しお願いしたいんだけど」 「ああ……ごめん、今日はちょっと夕方から用事があるから」 「夕方って、何時頃?」 「えと、たしか5時」 「じゃあまだ大丈夫でしょ。お願い、私も今日中に行きたいところがあるのよ。買い物まで行っちゃうと夕飯が遅くなっちゃうし」  母親にどうしてもと言われて、俺は仕方なく立ち上がった。  例の時間まであと二時間あるからまだ大丈夫か。充電も満タンのはずだし。  そう思って携帯を手に取った瞬間、驚いた。  電池があと30%で切れる。  なんでだ。ケーブルには繋がったままだ。だがよく見ると、その先のコンセントからアダプターが外れかかっている。きっと、朝ケーブルをたぐり寄せた拍子に外れたのだ。  「ごめん、ちょっと電話かけさせて」  慌ててコンセントに繋ぎ直し、充電したまま翼の携帯に電話をかけてみた。  20回以上コールしたけど、翼が電話に出ない。    
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