52人が本棚に入れています
本棚に追加
2011年
八月の暑さで目が覚めた。
懐かしい、実家の匂いがする。大学を卒業するまでこの家に住んでいたんだ。
夏休みでもダラダラせずにいつも早起きできたのは、この古いエアコンのせい。本当に懐かしいな。
なんてまた目を閉じている場合じゃない。
俺はベッドから飛び起きて、枕元のケーブルに繋がった古い型の携帯電話を手に取った。
時間は午前6時34分。充電は満タンだけど、ケーブルを外したら触っていなくてもどんどん減っていくんだ。そして、夕方にはほとんどなくなってしまう。
翼から連絡が来たのは確か、夕方の5時頃だった。過去の俺はその時どこへ出かけていたのか思い出せないけど、このあと確実に出かけて、電池をなくす。
そうだ。その前にこちらから連絡して会っちゃえば……?
名案だと思い、まずは翼が起きているだろうと思われる時間まで二度寝した。
それから、昼過ぎまでは何事もなかった。
午前中に一度翼に電話をしたら、図書館で自習していると小声で言われてすぐに切られた。図書館にいるくらいだから、まだ翼に俺と会いたいと思わせる事件は起きていないのだろう。
午後はどこにも行かずに家で待機することにした。
受験勉強をしているフリをすれば親にも文句は言われない。冷えた麦茶と煎餅で籠城の構えを万端にしておく。
翼からの連絡はまだ来ない。
これからのたった数時間で何が起きるというんだろう。
「伯崇」
3時過ぎになって母が俺の部屋にやってきた。
「気分転換に、外へ行ってきたらどう? 夕飯の買い出しお願いしたいんだけど」
「ああ……ごめん、今日はちょっと夕方から用事があるから」
「夕方って、何時頃?」
「えと、たしか5時」
「じゃあまだ大丈夫でしょ。お願い、私も今日中に行きたいところがあるのよ。買い物まで行っちゃうと夕飯が遅くなっちゃうし」
母親にどうしてもと言われて、俺は仕方なく立ち上がった。
例の時間まであと二時間あるからまだ大丈夫か。充電も満タンのはずだし。
そう思って携帯を手に取った瞬間、驚いた。
電池があと30%で切れる。
なんでだ。ケーブルには繋がったままだ。だがよく見ると、その先のコンセントからアダプターが外れかかっている。きっと、朝ケーブルをたぐり寄せた拍子に外れたのだ。
「ごめん、ちょっと電話かけさせて」
慌ててコンセントに繋ぎ直し、充電したまま翼の携帯に電話をかけてみた。
20回以上コールしたけど、翼が電話に出ない。
最初のコメントを投稿しよう!