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2021年
子どもの頃の友人だった品川翼から、白い封筒が届いた。
見るからに上質な紙で作られた封筒に、装飾まで入っている。
見た目が大袈裟な理由は、中身を見た時に納得した。
結婚式の招待状だ。
約二ヶ月後の大安吉日に翼が結婚すると、ぬくもりを感じられない明朝体が俺に告げる。
相手の名前──黒磯圭吾と書かれてある──には見覚えがなかった。
俺はいつからあいつの人生に関わらなくなったんだろうと、愕然としてしまった。
小さい頃は一緒に遊ばない日がないくらい、ずっと一緒にいた。それなのに、今はあいつが人生を捧げようとする相手の名前も知らないくらいに遠くなっている。いつでも連絡が取れると思って、忙殺されていく日々の中でちょっとずつ優先順位を下げていって、用事がないことを理由に連絡しなくなっていた。本当は、何もなくたって電話しても良かったのに。
俺がいない間に何があったのかな。
聞きたくてももう聞けないか。
ふと思い出したのは、高校三年の夏のことだ。
翼から急に「会えない?」って携帯電話で呼び出されて、「どこにいる?」って聞いた瞬間に電池が切れた。
あの頃、バッテリーが弱くなっていたのに気づきながらも交換せずに、騙し騙し使っていたんだっけ。
もしもあの時、充電さえあったら、翼に会えて、あいつの悩みとか聞けて、もっとお互いの気持ちの核心に迫れたんじゃないか?
そうしたら、今の俺たちとは違う未来が作れていたんじゃないか──?
──今更だよ。
握りしめて潰しそうになっていた封筒の中に、返信用葉書が入っていることに気づいて冷静になる。
御出席か、御欠席かって。
ちょっと、二、三日考えさせてくれよ。
スマホのアプリの中のカレンダーを表示させて、二ヶ月後の予定を見る。予定なんて真っ白だってことは見なくても分かっていた。それでも、何かないかって、また会えない理由を探してしまう。俺の知らない表情で笑う翼を見たくなんかなかったから。
今から二ヶ月後か。たった二ヶ月後かよ。ちくしょう。
指でカレンダーの日付をスクロールしていく。
すると、奇妙なことに気がついた。
カレンダーの日付の年数のところだけ、指を動かすたびに変わっていくのだ。
過去へと。
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