3 親友

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3 親友

 私には子供の頃からの大の仲良しがいる。いつもずっと一緒にいた。  そう、雨の日も風の日も晴れた日も曇りの日も。春も夏も秋も当然冬も。  そしてそれが当り前のことだと思っていた。  教室でだっていつもそう。俊と仲良しの男子グループと、私の仲良しの女子グループ。私たちを通して当然一緒にいる機会が多くなる。 「ねえ、萌」 「……」 「萌。萌!」 「は、はい!」  ああ、なんだ、美咲か。人がいい気持ちでうとうとしてたっていうのに。 「ひょっとして寝てたの? 緊張感ないなぁ。男子だっているんだよ。そんな大きな口開けて寝てちゃダメじゃない」 「はーい、すみましぇーん。以後気を付けます!」    ビシッと敬礼をしてみせたものの、やっぱり眠い。窓際の席はいいわぁ。  春の陽気に誘われて睡魔という得体の知れない、目には見えない魔物に襲われちゃあ、こんなにか弱い女子はひとたまりもない。 「ふぁ~」 「そんな可愛いあくびしたってダメ! ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」 「ふぁ?」 「俊くんって萌と仲いいよね」 「ふぁ」 「ひょっとして、付き合ってる?」 「ふぁ!?」  一気に目が覚めた。なんで、なにが、どこで、どうした? 「ふぁ!? じゃないよ、もう。真剣に聞いてるんだからねっ! どうなの? 付き合ってるの?」 「まさか!」 「でも、いつも一緒にいるし、すごく仲いいよね」 「そりゃ、まあ、幼馴染みだからね」  まだ高2になってひと月だし、言ってなかったっけ。 「ああ、そうなんだぁ」  ん? なにホッとした顔してるの? 「よかったぁ」  よかったってなんだ? 「あのさあ、私……」  なにもじもじしてるのよ美咲。 「なに?」 「私さぁ」 「うん、だからなに!」 「俊くんのことが好きなんだ。だけど萌がいっつも一緒にい……」  あ、どうして……。  あまりのことに意識が遠のいてゆく……。  親友の美咲が幼馴染みの俊のことを好きだと。  これは喜ぶべきことなのか、はたまた悲しむべきことなのか。 「美咲、ちょっと落ちつこう」 「いや、落ちついてるけど」 「ああ、それはよかった……じゃなくて。美咲、先週まで隣のクラスの男子にお熱あげてなかったっけ?」  そうそう、休み時間ごとに教室のぞきに行ってたよね? 「あ、なんか彼女できたみたいだからもういいの」  ほ~、あっさりしてるね。  それでまた好きな人ができたってわけか。 「そうなんだ」 「そうなのよ。それで周りを見渡せばそこに俊くんの微笑みが……」 「あんなヤツのどこがいいの?」 「幼馴染みの萌からしたら『あんなヤツ』かもしれないけど、勉強はできるし、スポーツだって。その上あの爽やかなイケメン微笑。声だって耳元で囁かれたりなんかしたらもう!」  ち、ちょっと! 照れながら人をビシバシ叩くのはやめてよ。 「ふ~ん。そんなこと意識したことなかったけど」 「はぁ。ダメだこりゃ。近すぎて気づかないってことかな」 「近すぎて?」 「俊くんのいいところが当り前になっちゃって、特に気にしなくなってるんじゃないの?」  確かに。言われてみるとそうかもしれない。  いつも隣にいて当り前。ずっと一緒で当り前。傍にいて当り前。  この当り前のことが当り前じゃなくなったらどうするんだろう。  私には子供の頃からの大の仲良しがいる。いつもずっと一緒にいた。  そう、雨の日も風の日も晴れた日も曇りの日も。春も夏も秋も当然冬も。  そしてそれが当り前のことだと思っていた。
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