7 変化

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7 変化

 私には子供の頃からの大の仲良しがいる。いつもずっと一緒にいた。  そう、雨の日も風の日も晴れた日も曇りの日も。春も夏も秋も当然冬も。  そしてそれが当り前のことだと思っていた。  それから季節はひとつ進み。  その間に美咲は(しゅん)とは恋人ではなく、友達のままでいたいと言うようになり、その後また新しい片想いの相手をみつけたようだ。  その人と目が合ったと言っては、人のことをビシバシ叩いて大騒ぎしてみたり、廊下ですれ違ったと言ってはぴょんぴょん跳びはねてみたり、忙しい大騒ぎに毎日付き合わされたものだ。  そしてその相手とは見事付き合うようになって。  当然その『彼』との行動が多くなり、必然的にまた俊と私の2人で過ごす日常が戻ってきた。  2人でいるときの俊は、相変わらずすっとぼけているし、無神経なセリフも吐く。  以前ならつっかっかってみたり、からかってみたりしていたのに、どうしてだろう。  どうしてだろう、言葉がぎこちなくなってしまう。  放課後、一緒に帰ったときだってそうだった。 「萌、帰ろうぜ」 「あ、うん」 「いつものとこ寄っていくか?」 「へ? いつものとこって?」 「お前、大丈夫か?」  そう言って俊は私の額に手をあてて、熱を計るようなそぶりをみせた。  いつもなら、「無礼者! なれなれしく触れるでない!」とかなんとか言ってふざけ合うのだが。 「きゃ」  不意に触れた彼の手に思わず出た声。 「なんだよ、『きゃ』って。俺がなんかしたみたいじゃんか」  なんかしたじゃん。  心を悟られまいとその場を取り繕う。 「急にばっちい手を美しいわたくしのおでこに……」 「ばっちいってなんだよ」  え?  なにそれ。いつもならもっとつっかかってくるくせに。    ちょっとムッとした声色で、吐き捨てるように呟いた俊の様子に少し戸惑った。 「ばっちいから、ばっちいって言っただけじゃん」  言うつもりもない言葉が口から勝手に飛び出して。 「お前は俺のことをそんな風に思ってたのか?」 「え……」 「よく解ったよ。じゃな」  え……待って。  待って俊。どうしたっていうのよ。  いつもならふざけて冗談言って笑い合うのに。  急に怒って帰ってしまった俊。どういうつもりなのか全く解らない。  今までと同じようには仲良くできないの?  そう思うと急に涙が溢れてきた。  どうしようもない空虚感が全身に立ちこめて……って。  一体私はどうしちゃったのだろう。自分で自分が解らない。  今までだってケンカくらいしたことはある。でも、次の日にはまたいつもと同じ朝が始まって。  今回もきっとそう。また明日になれば、なにくわぬ顔で「おはよう!」って私の家のインターホンを鳴らすに違いない。  きっとそう。  きっと……。
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