8 気づき

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8 気づき

 私には子供の頃からの大の仲良しがいる。いつもずっと一緒にいた。  そう、雨の日も風の日も晴れた日も曇りの日も。春も夏も秋も当然冬も。  そしてそれが当り前のことだと思っていた。  これから先もずっと変わらず続いていくものと、信じて疑わなかった。  帰り道、あんな風に(しゅん)と別れてしまって。  ケンカなんてよくあることだし、次の朝にはなにくわぬ顔で家まで迎えに来てくれて、いつものような屈託のない笑顔で「おはよ!」って。それでまたいつものような1日が始まって、ふざけ合って冗談言い合って笑い合って……。それが当り前のこと。  これから先もずっと変わらない私たちの距離感。  友達よりももっと近い関係。  でも、  恋人よりももっと遠い距離。  それは仲の良い幼馴染み。  私たちって一体……。    次の朝、いつになくソワソワしながら身支度を整えた私。  もうすぐ俊が迎えに来る時間。きっとまた昨日は何事もなかったかのように、悪びれずに「おはよ!」ってやってくるんだろうな。  今日はどうやって返してやろうか。ちょっと怒ったそぶりでもったいつけてみようか、それとも満面の笑みで「おはよう」と返すか。  ドキドキしながら待つ時間は長くて。  待ち遠しい時間はなかなか進まなくて。  今か今かと待っているのは案外辛くて。  切なくて。  寂しくて。  泣けてきて。  俊、遅いよ。もう遅刻しちゃうよ。  その日、とうとう俊は迎えには来なかった。  こんなことは初めてだ。  一体どうしちゃったの?  私、そんなに気に(さわ)ること言ったのかな?  いつもの調子でしゃべっただけなのに。いつもの調子で……。  いや違う。俊にはなにか思うところがあったに違いない。  でないとこんな風に突然……。  え、  私さっきから俊のことばっか考えてる。  いくら行き違いになったからといって、然程(さほど)気にするようなことでもないのに。  こんなにもやもやするのはなぜ?  こんなにも切ない気持ちになるのは。  仕方なく私は1人学校までの道程(みちのり)を、ひとりぼっちの通学路を、ただひたすら歩き続けた。  いつもはあっという間の15分間が、今日は1時間にも感じられたほどに。  こんなにもやもやするのはなぜ?  こんなにも切ない気持ちになるのは。  教室に入ると俊の笑い声が聞こえた。  あ、もう来てたんだ。  俊は一瞬こちらを見たが話しかけられ、また友人たちとワイワイやっている。  妙な感覚が全身を襲う。  まるで片想いの相手に無視でもされたかのような。  苦しい。そんな言葉がぴったりくる。  そうか。  ……そうだったんだ。 『恋』してたんだ。
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