いってき。

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…やっぱり二回に分けて運べば良かったかな、  いやでも、また階段上んなきゃいけないし。 地味に重いノートの塊を持ちながら、階段を下りる。 踊場の角に、水が入ったままのバケツが放置してあった。大方、掃除した後誰かが片付けて忘れたのだろう。 …これ運び終わったら片付けとくか、 バケツに目をやりながらそんなことを思ったとき、 「っ、?!」 ずるっと何かに足をとられて、体が傾いた。 …ヤバい、 転ぶなよー、と最後に声をかけてきた隼人の顔が何故か頭に浮かぶ。 「…っと、大丈夫?」 耳元でやたらと鼓膜に心地が良いテノール声が響いた。 「えっ、」 お腹にがっつり回された腕に、背中に伝わる誰かの体温。 階段の下には、無惨に散らばったノートたち。 ふわり、と甘いバニラのような香りが鼻を掠めた。 その香りに釣られるように後ろを向くと、目と鼻の先にやたらお綺麗に整った顔面があった。 ふわふわとしたモカブラウン色の髪に、小さな輪郭。抜けるように白い肌は、こんなに間近で見ているのに、毛穴一つ見当たらない。 高く通った鼻筋に、色素の薄い清んだ瞳。 そのどれもが黄金比と言われたら納得できるような位置に綺麗に並べられている。 「…聞いてる?」 「ぅえっ、、、?!」 人形か絵画の中にいそうなその顔から、声が発せられ思わず変な声が漏れた。 そのままその人に片腕でぐいっと体を引き寄せられ、傾いた体が元に戻る。 元いた踊場の床にしっかりと足が着いた。 「あ、ありがとうございます…」 どうやら、躓いて階段から転げ落ちそうになったところをこの人に助けてもらったらしい。 頭を下げてから顔を上げ、改めてその人を見た。 俺よりたぶん20センチぐらい高い。 スラッとしててスタイルが良く、トップアイドルでもトップモデルでも、何でもなれるだろうし、そうだと言われても納得がいく容姿だ。 ていうか、一般人なのかそもそも。 いやでも、うちの学校の制服着てるし、、、 「…あれ、君が持ってたやつだよね?」 「え?」 白く長い指が指し示す方向を見ると、そこには無惨に散らばったノートたちがいた。 「…あ、はい。」 「係の仕事か何か?」 「え、いや、先生に頼まれて…」 しどろもどろ答える俺を、やたら透明度の高い瞳がじっと見つめていた。 …え、なに。 「…な、何か?」 俺の言葉に、目の前の彼の瞳が緩んだ。 ふわり、と彼が微笑む。 「っ、」 これは本当に比喩でも何でもなくて。 ____花びらが舞った。 彼が笑った瞬間、ふわっと花が舞ったんだ。 勿論、実際には床に花びらは散らばっていなかったけど。俺には見えたんだ。 新発見。 規格外の美形には、人に幻覚を見せる能力があるらしい。 「…変わらないね。」 「え…?」 ぼそっと何やら呟かれた言葉が聞こえず、首を傾げた。
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