いってき。

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そんな俺の反応が目に入ってるのか、いないのか。彼は特に答えることなく、階段を下りていく。そして、そのまましゃがみこむと散らばったノートを拾い集め出した。 俺も慌てて階段を駆け下り、彼のそばにしゃがみこむ。 「ご、ごめん、ありがとう、」 「…どこ持ってくの?」 「えと、職員室に、、、」 ノートを拾い集めながら答えると、彼がノートを持って立ち上がる。 スタスタと歩き出したので、どうやら運ぶのを手伝ってくれるらしい。 俺も慌てて自分が拾い集めた分のノートを抱えて、彼の後を追った。 無言のまま並んで廊下を歩く。 何か話しかけようかと考えあぐねる俺に、隣の彼がぽつりと口を開いた。 「…名前は?」 「く、久間田佑羽です。」 「…そう、」 再び訪れる沈黙。 俺も名前を聞こうと口を開きかけたとき、彼が器用に片手でドアを開けた。 いつの間にか職員室についてたらしい。 「し、失礼します…」 無言のままズカズカ職員室に入っていく彼の後を追い、俺も中に足を踏み入れる。 「さ、ささ佐藤…?」 先生の誰かが幽霊でも見たかのように、彼を呆然と見ながら呟いた。 なるほど。彼は佐藤君と言うらしい。 こう言っちゃ何だが、容姿と比べて名字は随分一般的だ。 「どこに置くの?」 「…そこの机に置いとけば大丈夫だと思う。」 しーんと静まり返った職員室。 先生方皆が固まったように、彼、佐藤君を見つめていた。 「手伝ってくれてありかとう。」 俺の声に反応して、佐藤君がこちらにその目を向ける。 「あ、後、階段で危ないとこを助けていただき…」 話し終わるその前に、ふわりと頭に手を乗せられた。 「え…?」 驚いて俺より高い位置にあるその顔を見上げると、誰かと違ってやたら優しく、まるで慈しむように頭を撫でられた。 「またね。」 ふわり、と佐藤君が微笑み、俺に背中を向けて職員室を去って行く。 ただの職員室がランウェイのように見えた。
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