いってき。

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いってき。

「久間田~、悪いけどこれ職員室まで運んどいて貰えるか?」 「え?」 「俺今から会議室行かなくちゃいけなくてだな、頼む!」 「あ、はい。」 頼む!、お願い!、と言う言葉にやたら弱い俺。この厄介な体質を、このクラスになって約1ヶ月で担任に見抜かれたらしい。 「くまちゃん、また河村に雑用押し付けられたのかよ。」 1年の頃から同じクラスである長谷川隼人は、勿論この俺の厄介な体質に気づいていた。 「…うーん、でもあのノートの山を職員室に運ぶだけみたいだし。この前の体育倉庫の掃除よりはるかに楽だよ。」 本来なら体育委員の仕事であるはずの掃除は、委員二人がサボったとか何とかで、何故か図書委員の俺がやることになった。 その日はたまたま部活が休みだった隼人が手伝ってくれたから良かったけど、一人でやったらそれなりに大変だったと思う。 「ていうか、くまちゃん言うのやめろ。」 誰が呼び出したか知らないが、最近は女子にまで、くまちゃんくまちゃん呼ばれてからかわれるようになってしまった。 酷いときは「くまのユーちゃん」だ。 どっかのキャラクターみたいになるじゃねぇか。 だいち、俺の名前は久間田佑羽だ。 「だ」と「う」を無視するな。 「はは、かわいーな、佑羽は。拗ねんなって、俺も持ってくの手伝ってやるからさ。」 むすっとして、俺より十センチほど背の高い隼人を見上げていると、何故か頭をわしゃわしゃとなでられた。 163センチ、と平均身長よりもすこーしだけ低い俺は、童顔なことも相まってか、よく人に頭を撫でられる。 男子だけならまだしも、女子にまでやられるから何とも複雑だ。 中学のときなんて、卒業式の日にずっと好きだった同じクラスの女子に思いきって告白したら、「弟みたいに思ってて、、」と言われた。 友達ならまだしも、弟って何だ。弟って。 「おい、長谷川何してんだよ。部長から部室集合って連絡来ただろ。」 「え、マジ?」 ノートの山を半分持とうとしてくれた手を止め、慌てたように隼人がスマホを確認する。 「俺は大丈夫だから早く行ってきなよ、隼人。」 「ホントに?佑羽はちっちゃいからなんか心配何だよなー、」 「失礼な奴だな、このくらい一人で持ってけるに決まってんだろ?早く行ってきなよ。」 「…じゃあ、重かったら誰かに手伝ってもらえよ?」 転ぶなよー、とか何とか言いながら廊下を走って行く隼人。…あいつの方が転びそうだけど。 「…職員室だっけ、」 隼人の背中を見送った後、俺は机に置いてあるノートの山に手を伸ばした。 …まぁまぁ重いじゃないか、おい。これ絶対1クラス分じゃないな。 ノートの山を抱えてため息をつくと、俺は階段の方に足を向けた。
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