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思い詰めた表情の太一が 、一瞬の沈黙を弱々しく破った。
「姉さんから託された俺の子供····とは思えなくなってた。いつの間にか、可愛くて大切で····守りたくて」
「僕、男だよ? 彼女にはなれないし、血も繋がってるんだよ」
「俺も気の迷いかと自分を疑ったよ。でも、誤魔化しようのない気持ちはどんどん膨れ上がるんだよ。俺なぁ、恋ってたぶん初めてなんだ」
「なっ····、何言ってんだよ。バツイチのくせして」
「あれは、流されてというか、唯香に押し切られたというか····」
押しに弱い太一らしい。怪しいツボとか財布とか、押し売りされたら半笑いしながら買いそうなお人好しなのだ。
きっと、この見た目のおかげで、これまで押し売りとかに引っ掛からなかったんだろうな。と、そんな事はどうでもいい。
····あれ? そういえば、叔父さんと結婚ってできんの? 違う違う、男同士なんだから、そもそも無理なんだよ。
「いくら僕がヒョロいからって、女と勘違いはしてないよね?」
「してないぞ? お前はれっきとした立派な男の子だもんな」
「良かった。そこはわかって言ってんだ」
「お前、俺の事バカだと思ってるだろ」
「まぁ、賢いとは思ってないかな」
「酷い言われようだな、はは。あ! それとな、俺たち血ぃ繋がってないぞ」
「······はぁ?」
「俺と姉さん、もといお前の母さんな、本当の兄弟じゃないんだよ。あれ? 聞いてなかったのか?」
聞いていないぞ。そもそも、母さんとまともに会話した記憶が無いのだが。
なんでも、太一は本当の拾われっ子らしい。確かに、あのクソ真面目な仕事人間の母さんや、堅物のじいちゃんばあちゃんと太一じゃ違いすぎる。
36年前のまだ薄らと肌寒さが残る春先、玄関の前に藤籠で眠る生後間もない太一が居たそうだ。手紙の内容から、夜逃げしたじいちゃんの知り合いの子と思われた。だが、その知り合いとは音信不通で真相はわからないらしい。
太一はあっけらかんとしていて、気に病んでいたり、負い目に感じている様子は無いようだ。何があったって前向きでクヨクヨしないのは、太一の良いところだと思う。僕には無いものだ。
とにかく、僕と太一は他人なのだそうだ。これはチャンスなのだろうか。
浅はかな淡い期待を胸に灯らせてしまったではないか。大前提として、僕たちは男同士だ。こんなの、世間が許してくれない。
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