8 犬もくわない

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部屋は灯りの点いたままだった。急いで出たのだろうか。 ソファーは斜めに動いてラグがたわんでいたし、何よりぶつかった拍子に倒れたのか、ダイニングテーブルの椅子が倒れたままの状態で置かれていた。 ノブは無言で椅子とソファーをもとの位置に戻すと、俺をソファーに座らせて自分は俺の足元に座る。 いつもとは逆の位置関係だ。 そんな事が可笑しくなる。今はそんな場合じゃないのに、俺は知らずに笑みを浮かべていたみたいだ。 ノブは俺の顔をビックリしたように見て、何か話そうと口を開いては声を出さずにまた閉じる事を繰り返す。 言い淀むノブの姿に俺は自然に一番聞きたかったことを聞いた。 「な、ノブはどうして俺に言ってくれなかったんだ?」 直球勝負のように、単刀直入に聞く。 「清水や小島からノブが起業しようとしているのを聞いたよ。俺、全然知らなかった。忙しそうだな、と思ってたけどてっきり引っ越しのバイトのヘルプだと思ってたんだ。」 「ああ……。」 ノブは決まり悪そうに頷く。 「そう…ヒロが思ってるのは、分かってた…。」 「じゃ、わざとだったんだ……。」 「うん、ごめん…。」 それきりノブは何も言わない。 俺はゴクリと唾を飲み込んで、言いたくはなかったけれど不安に思っていたことを聞いた。 「……それってさ、これからのノブの人生に…俺はいらないって、こと?」 不覚にも声が震える。そうだ、と言われたらみっともなく泣いてしまいそうだ。 「俺に何も言わないで決めた事は…俺がダメな奴で…どうせ言ってもどうしようもないって思われたのかも知れないけど…。でも…何も言わないのは…この先も一緒にいるつもりが、ないって……そういう事?」 涙が出てきそうになって、グッと唇を噛みしめる。
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