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飛び出した時に財布を持たなかった俺は、駅前のファミレスに小島を呼び出していた。今日は何度この道を往復したのだろうか。
周りが見えないかのように俺の手を放さずに家への道を急ぐノブの背中を見つめながら、俺はやっぱりノブが好きだ、と思う。
俺よりも高い身長。広い背中。適度に付いた筋肉の張り。
男らしくて格好いいその体躯。
背を向けられているから見えないけれど、目を逸らす事なくひたすら前に突き進むその瞳の強さ。
高い鼻梁にやや薄い唇。
顎のラインはシャープで年々男の色気が増している。
一つ一つを挙げればキリがないほど俺はノブだけを見ていた。
まだほんの小さな子どもの頃からの付き合いだ。変わっていくノブを一番近くで見ていたのも自分だと断言できる。
友情が愛情に変わってひたすら苦しくて辛かった日々も、ノブの一番傍にいたのは自分だと思う。
そんな自分が何を不安に思う事があるのだろう。
例えノブが俺の前からいなくなったとしても、俺がノブを想う気持ちを消したりは出来ない。
そう思えたらノブへの怒りも少しずつ消えていく。
俺の言葉を聞いてもらえなかったことは悲しいけれど、そもそも俺は気持ちを伝える努力をしたことがあったんだろうか。
いつも俺の気持ちを先回りするように読んで、俺が委縮しないように振舞ってくれたのはノブだった。
言えない言葉も飲み込んだ言葉もたくさんあったけれど、ノブはいつも俺の気持ちを汲んでくれた。
蔑ろにしたことなんてなかった。
そうだ、それなら今回の事だってノブは俺のためになる事をしてくれていたはずだ。
それを俺が早合点してノブを責めてしまったのかも知れない。
「ノ、ノブ……。」
後ろ姿に声を掛ける。小さな声だったけれどノブには聞こえたようだった。
ピクリとほんの一瞬動きを止めたけれどすぐにまた歩き出した。
繋がれた手が妙に汗ばんでいるように思えた……。
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