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自宅へと向かう道筋はなだらかな坂道になっていて、道幅も広い。LEDの街灯は明るく、光のある部分はいいのだけれど、小さなお稲荷さんやお寺などもあって薄暗く、そのコントラストが時折、薄気味悪い気分にさせる事もあった。特に遅い時間はそうだ。自動車の通りもまばらになり、ぽつりと歩いていると、夜の口が大きく開いて、自分が呑み込まれていくような心持になる。
そう言った時間帯のその道筋で、不意に現れる彼女に最初は驚いたものだったけれど、あちらはぼくの姿など目に入らぬかのように、平然と歩いて行くようだった。
髪は下ろしている事も、束ねている事もあった。スマートフォンが入るかどうか位の小さなバッグだけを持ち、悠然と闇の向こうから現れ、通り過ぎていく。
後には辺りに、少し鼻に残るような甘い香水の匂いが残る。
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