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視線が合う。やはり整った顔立ちで、少し冷たそうにさえ見えた。それが小学校六年のあの子と重なるようで、重ならなかった。彼女はもっと、屈託なく笑っていた記憶がある。
「……なにか?」
ぼくがおずおずと訊くと、彼女はふっと息をついて、腰に手をあてた。首をこなして、髪をはらう。
「あたしの勘違いかもしれないから、違ったら言ってください。貴方、斉藤要クン?」
自分の名前だった。
「はい、斉藤……要、です」
女性が嘆息し、叱るように言った。
「もっとしゃんとしなさい」
「あ、はい」
女性はぼくの慌てた様子を見て姿勢を崩し、口許に手をやって声をあげて笑った。
「やっぱりそうなんだ。まさか要くんがいるなんて思わないじゃない?びっくりした。憶えてない?あたし」
不意に彼女の名前が記憶から蘇えった。
「茉莉花先輩」
安城茉莉花。サッカークラブのエース。
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