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First
日本のみならず海外にまで、世界各地に支社がある名の知れた大手食品メーカー、【R.foods】
そんな上場企業の北海道支社。街中のオフィス街に佇む自社ビルは、周辺のビルの中でも一際有名だった。その中の営業部、営業一課。
そこには、"冷徹上司"と噂されるとある男性社員がいた。
「このプレゼンのどこを評価しろと言うんだ?」
「す、すみません!」
「会議は明日だ。わかってるな?」
「はい!」
「全部やり直して今日中に再提出」
顔を上げずに部下に冷たく淡々と告げるその男。
名は飛成 綾人、歳は三十五。入社して営業一課に配属されてからずっと営業成績トップを維持し続け、三年前から他の勤続年数の長い社員を差し置いて異例の抜擢で課長に就任したエリート。
それだけに留まらず、すらりとした高身長に上品なスーツに綺麗に流した清潔感のある黒髪。
綺麗なアーモンド型の奥二重の目が印象的で、高い鼻と薄い唇がさらにそれを際立たせている。
誰もが羨む端正な顔立ちが放つ営業スマイルも取引先で人気の理由だと言う。
しかし社内ではいつもブラックコーヒーを飲みながらその都度不機嫌そうに眉間に皺を寄せてデスクトップを睨みつけている。
笑ったところなど見た事がない人が大多数で、自分にも部下にも厳しく正論で淡々と叱られる。その割にプライベートは謎で一線引いたような俯瞰した態度が、部下からは仕事に於いては信頼されているがそれと同じくらい何を考えているのかわからない、と恐れられている。
「課長、宮本コーポレーションの津堂様から一番にお電話です」
「……ありがとう金山」
ーー私、金山 歩は、そんな飛成課長がいる営業一課に所属している。
新卒入社してから七年が経過した二十八歳。一課の中でも幾つかのグループに分かれて仕事をしており、その内の一つのチーフを任せてもらっている。
そしてその全てのグループを統括しているのが飛成課長だ。しかも課長に就任する前は私のグループのチーフをしていた。入社後すぐに飛成課長のグループに配属された私はそれ以来いつも厳しく指導してもらっている、直属の上司だ。
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