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「綾人君はクールでかっこいい顔してるんだから、甘いものなんて嫌いって言ってくれないと困るの!」
「……え、何で?どういうこと?」
「男のくせにスイーツ好きって頭おかしいんじゃないの!?私の理想を崩さないでよ!」
「は?……理想?」
「綾人君の顔は、私の理想そのものなの。だから好きなものも、性格も。全部私の理想でいてもらわないと困るの!」
言っている意味も、ハルカが怒鳴っている理由も。俺には全く理解できなかった。ただこれ以上一緒にいると危険だと判断した俺は、その場から逃げようとする。
しかしハルカは逃してくれなくて。
「いつも飲んでるマイボトルの中身はブラックだよね!?」
「……いや、カフェオレかココアだけど。俺ミルクないとコーヒー苦くて飲めないし」
「……嘘でしょ……」
呆然と立ち尽くすハルカに、俺は何も言えなかった。
「綾人君は甘いココアじゃなくって苦いブラック飲むような大人のかっこいい人だと思ってたのに……」
「いや、言ってる意味がちょっと……」
「だから!」
ドン!と俺の胸を押したハルカの力は、想像以上に強くて。
いつも、手を繋ぐ時は折れそうなくらい細くて小さい手だと感じていたのに。
一度タガが外れたハルカは、もう誰にも止められなかった。
「私のことが好きなら!私の理想の彼氏になってよ!私のことが好きならできるでしょ!?」
「……ハルカ、自分が何言ってるかわかってる?」
「うるさい!うるさいうるさい!」
「ハルカ……」
「女々しいのよ!男のくせに!スイーツ!?ふざけないでよ!その顔と合ってないんだよ!宝の持ち腐れかよ!」
泣きながら俺を罵るハルカを、俺は無表情で見つめていた。
「もういい!出来ないんなら、もうそんな彼氏いらないから!私の二年間を返せ!もう別れて!」
そう叫んで、ハルカとはそれっきりだ。
そしてその数日後。
「飛成君って超甘党らしいよ。イメージと真逆すぎてびっくりしない?」
「わかるー。なんかちょっとガッカリだよね。顔と合ってないって言うかさ……」
「えー?でも可愛くない?そのギャップがいいじゃん。ハルカと別れたなら今フリーだよね?私狙っちゃおっかなー」
「何言ってんの。あんたはあの顔が好きなだけでしょ」
「ひっどーい。でもそれ言ったらハルカだってそうだったじゃん」
「シッ!聞こえるよ!」
……全部聞こえてる。
大学に行くと俺とすれ違う知り合いが皆どこかよそよそしくて。聞こえてくる噂話に俺は耳を塞ぎたくなった。
もちろんハルカに対しても周りは腫れ物に触るようなものだったが、俺の外見からは想像のできないギャップに、噂は絶えなかった。
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