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Eighth
*****
「───そんなことがあって、ハルカとはそれっきり自然消滅したんだ。でもハルカが誰かに全部喋って、それが回りに回って。噂だけが一人歩きした状態になった。別に噂程度ならいくらでも良かったんだけどな。友達だと思ってた奴らもどこかよそよそしくなって。それが一番キツかったかも」
「そう、だったんですね」
「それがきっかけで、それまで以上に敏感になった。"俺のイメージを崩せば周りから人が離れていく"って知ってしまったから」
綾人さんの昔話に、何も言葉を返せなかった。
言えばわかってくれる人もいるし、逆に離れていく人もいるだろう。
「それならもう、自分一人の中に留めておいた方が良いと思ったんだ」
その目には諦めが映っていて。儚いその表情に、見ているこちらが切なくなる。そんな私に綾人さんは微笑んだ。
「そんな状態になって、もうどうしようもできなくなったから逆に開き直って普通に大学通ってた。友達なんて呼べる人はほとんどいなくなったけど。ゼミの奴らはそこまで気にしないでくれたからまだ救われたよ」
綾人さんはそのまま手に持ったカフェオレのカップを持ち上げた。
「社会人になってからは俺のイメージを崩さないように、とにかく必死だった。ココア飲むのもやめて、ブラック飲むようになって。でも最初は苦くて飲めたもんじゃなかったよ」
思い出しているのか、表情まで苦そうで。
私も無意識に舌に苦味を感じる。
「でもそんな時に恭子と付き合って、最初は恭子にも隠してたんだけど、いつだかチョコ摘んでるところ見られたことがあって。その時に初めて言った。引かれる覚悟も捨てられる覚悟も出来てた。でも恭子は気にしなくていいって言ってくれたんだ。それで凄い気が楽になった。……けど結局恭子とも長くは続かなかった」
「……」
「歩にも言うつもりなんてなかった。俺は人が離れていくのが怖いから、誰に対しても自分で壁を作ってたんだ。だから歩とあの会場で会った時、また引かれる覚悟は出来てた。だから俺が甘党だって知って"嬉しい"って言ってくれた時に、ホッとしたんだ。肩の荷が降りた感じで。歩は離れて行かないってわかったからだと思う」
数ヶ月前の自分の言動を思い出す。
"課長がスイーツ好きならいっぱい話せそうで今結構嬉しいです"
「あの時、私本当に嬉しかったんです。相田誘っても、いっつもうざったそうにされてたから」
「ははっ、確かに相田っぽいな。……でも俺は歩の言葉に救われたよ」
だから感謝してる。ありがとう。
そう言われて、私の口角も自然と上がった。
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