Eighth

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「歩が入社した時から気になってた。綺麗な子だなって。けど直属の上司だし、俺は周りから怖がられてる部分もあったから、歩とどうこうなりたいとかは全く無かったんだ」 「……」 「新人の頃のお前は落ち着かなくて仕事も全然ダメで。それなのに周りのことだけはよく見えてた。それが妙に気になって」 「……怒られるのが嫌で、周りを常に気にしてただけですよ」 あの頃は毎日が必死で。毎日怒号が飛び交っていたこともあり、何かやらかしたら私も怒鳴られるのかと思ったら落ち着かなくて、逆にどうでもいい凡ミスを繰り返していたような覚えがある。ただのポンコツ社員だった。 そういえばその度に、綾人さんは"いいから落ち着け"って言ってくれてたっけ。 「そんなこともありましたね。懐かしいです」 「そうだな」 懐かしい記憶に目を細める。 「他の奴はミスして叱られると、結構泣いたりそこまで沈むか?ってくらいに落ち込んだりで色々と対応に困ることも多かったんだよ」 「確かに、そうですね」 綾人さんに叱られて泣いている女性社員も沢山見てきた。 「それなのにお前は泣きもせず落ち込みもせずにこっち睨みつけてくるからこっちが対応に困って参った」 「あぁ……多分泣かないように必死に我慢してただけですね。泣いたら負けだと思ってたんで。負けず嫌いなので」 「そういうところが、印象に残ってた」 落ち着きがない、仕事できない、凡ミス、説教されてるのに上司にガン飛ばす……。 言われたことを指を折って確認して、動きを止める。 「……今の話の中に私が好かれる理由ありました?」 あまりのポンコツっぷりに、どう考えても嫌われる要素しかないんだが。 「ははっ、普通は無いかもな」 「酷いっ!」 「それが、他の社員と違って綺麗な顔の割に頭抜けてる奴なんだなって変に印象に残ってた」 「……その節は大変失礼致しました」 謝る私に綾人さんは笑いながらカフェラテを一口飲んだ。
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