Ninth

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「そう言えば、課長がこれ金山に渡しといてって」 「え?」 「お客様から貰ったんだって。他の人の分は好きに取っていけって言ってたけど、金山の分だけ別で取っておいてたみたい。どうせ会うなら渡しとけってさ。自分で渡せばいいのに。恥ずかしかったのかねー。本当、課長ってわかりやすく金山にだけは甘いよね。愛されてるねー」 手に乗せられた高級店のフィナンシェ。 それを見て、口元が勝手ににやける。 「毎日さ、給湯室で課長に会うと"コーヒー淹れてくれる人がいなくなった"って言って嘆いてるよ」 「そうなの?」 「うん。でも不思議なんだけどさ、たまに私が給湯室に入るとミルク持ってたりするんだよね。私の顔見た途端慌てたみたいに置くんだけど。課長ってブラック派じゃなかったっけ?」 「ククッ……」 「金山?」 コーヒー苦手なくせに。そうやって見栄張っちゃって。本当に面白いんだから。 「ううん。なんでもない」 危ない危ない。思わず笑ってしまった私に、眞宏は不思議そうに首を傾げる。 それは課長のトップシークレットですから。眞宏にだって教えてあげない。 「でも、課長の話するとやっぱり金山良い顔するよね」 「え?」 「幸せそうで何より」 安心したように微笑む眞宏に、私も微笑み返す。 「眞宏には負けるよ」 「ははっ、じゃあお互い幸せってことだ」 「そうだね」 手の中におさまったフィナンシェをもう一度見つめる。 きっと、綾人さん用にもう一つ別に取っておいているものがあって。それは綾人さんのデスクの中か、既にその胃の中か……。 それは眞宏も知らないことだろう。 でも、それでいい。 「そうだ。眞宏に報告したいことがあるんだけど!」 「え?何!?ついにプロポーズされたとか!?」 「え、なんでわかったの!?」 「うそ!え!本当!?」 「うん」 パッと左手を見せると、眞宏の視線は私の薬指に注がれる。 「ちょっと待って!いつの間に!?見せて!え、プロポーズの言葉は?どこで言われたの!?あぁもう気になる!今日の夜飲みに行くわよ!」 「あ、ダメ。今日は綾人さん家にお泊まりだから」 「嘘でしょ!?金山!待ってー!」 この秘密は、私と綾人さんのだけのもの。 彼の笑顔も、彼の甘さも。彼からの大切な言葉も。 "俺と、結婚してください" "はい。よろしくお願いします" 私だけが知っていれば、それでいい。 ───冷徹上司の、甘い秘密。End.
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