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「いつも会社で私ブラック淹れてましたけど、もしかして……?」
「……あぁ。本当はブラックは苦手だ」
「ぶふっ……」
「笑うな」
「いやだってっ……私何年ブラック淹れてました?言ってくださればカフェオレにでもしたのに」
「この歳でこんな顔で、甘党でコーヒーも飲めないとか引くだろ……」
恥ずかしそうな声は、段々と語尾が小さくなっていく。
それがまた可愛く見えてしまった。
「えー?別に引きませんよ」
「……」
「私も本当はブラックよりココアが好きですし。それに、そもそも私の周りってスイーツ苦手な人が多かったのでそういう話あまり出来なかったんですよ。でもそっかあ……課長がスイーツ好きならこれからいっぱい話せそうで今結構嬉しいです」
ケーキバイキングが何月から始まるとか、どこのケーキ屋さんが美味しいとか。こんなイベントがあるとか。
相田は乗ってくれないし。後輩の白石ちゃん達とはあまりそういう話をしないから。
「そうか……」
「はい」
それから、少しだけ話をして。
本当は私と同じでコーヒーよりココアが好きで。隠れてたまにケーキバイキングやスイーツバイキングに行くのがちょっとした趣味で。毎朝のコーヒーを飲む時の眉間の皺は、苦いのを我慢していたからだなんて。知れば知るほど課長のイメージが良い意味で裏切られたような気がしてちょっと親近感が湧いた。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
この通りだ、と頭を下げる課長。
「別に誰も気にしませんよ?」
むしろ課長のこんな一面を知れば、課長のことを怖がっている社員も減るかもしれないのに。
「いや俺が気にする」
しかし課長は頑なにそれを拒否する。
「ふはっ、わかりました」
もったいないと思いつつも快諾して。
「その代わり、今度おすすめのスイーツ教えてくださいね」
「……わかった」
こうして、私と課長のちょっとした秘密が出来たのだった。
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