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一人で歩く、夜の街。
街中は夜中でも明るいもので、人通りもまだまだ多い。
空を見上げてもそこには真っ暗な闇が広がっているだけで。星など殆ど見えないに等しい。
この時間になると、薄手のコートだけではどうも寒い気がする。
それは気温のせいか、心の中を貫通したかのようにぽっかりと空いた穴のせいか。
鞄の中からマフラーを出して首に巻き、顔を埋める。そんなことで晴れるわけもない虚しい気持ちを抱えながらも駅に向かって歩いた。
……あれで良かったのだろうか。
自問自答を繰り返す。
はぁ、と真白に染まるため息を一つ空に投げながら、駅の入り口を潜る。
階段で地下に降りた先、ICカードを取り出して改札を通ろうとした時。
後ろから声を掛けられた。
「──金山?」
「え?……あ……飛成課長……?」
そこにいたのは、スーツの上にトレンチコートを羽織った飛成課長だった。
「どうしてこんな所に……」
「ちょっと野暮用があってな」
「そう、ですか」
「どうかしたか?顔色が悪いが……」
「……いえ、何でもないです。ちょっと飲み過ぎただけで……」
「嘘つけ。お前基本ザルだろ。それに足取りもしっかりしてるし。……何かあったんだろ?」
「……」
私の腕を掴んだ課長は、心配するように私の顔を覗き込んだ。
……本当、この人は私の嘘をよく見抜く。
昔から、飛成課長は私の体調が悪い時、すぐに見抜いてきた。
私がわかりやすいのか、課長が鋭いのか。
その視線から逃れようと顔を下に向けるものの、課長はそれを追ってきて。
仕方無く目を合わせると、課長は怪訝な表情をした。
そして何を言うわけでもなく、私の腕を引いて駅から遠ざかる。
「か、課長?どこに向かってるんですか……」
「……静かなところ」
「でも私帰りたいんですけどっ……」
言うと、課長はこちらを振り向く。
しかしその顔はやはり怪訝なもので。
「……そんな顔で、地下鉄乗るつもりか?」
「……え?」
言っている意味が分からなくてそう聞くと、課長は一つ息を吐いて私の頬を右手の親指で優しく撫でた。
冷たい指にビク、と肩が少し跳ねた。
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