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「……泣いてたら、目立つぞ」
穏やかに微笑んだ課長に、私は固まる。
そして自分の手を顔に当てると、確かに水滴が付いて。
上を向いて、雨が降っていないことを確認した。
でも泣いている自覚は全く無かったものだから。
「え?……あれ?何で……あれ……?」
課長は私の腕を離そうしないため、空いている手でメイクが落ちないように涙を拭う。
それでも絶え間なくポロポロと零れ落ちてくる雫に、次第に私の手が追いつかなくなって。
──ふと、課長が掴んだ私の腕をそっと引く。
「え?」
ポフ、と目の前の大きな身体に吸い込まれるように受け止められた。
頭の後ろに回った手は見た目よりも大きくて、温かい。
抱き締められている。そう気付いたのは、少し経ってから。
頬に当たる課長の髪の毛がくすぐったい。
驚いて、「……飛成課長?」と呟くとそっと体を離して。
鼓動が高鳴る。
「……止まったか?」
そう言って私の顔をまた覗き込む。
言われて初めて、あんなに止まる気配の無かった涙がピタッと止まった事に気が付いた。
「……あ」
「止まったみたいだな」
「……はい。すみません。ご迷惑をおかけしました」
帰ります。そう言おうとしたものの、飛成課長は再び私の腕を掴んだまま歩き出して。
「か、課長?私もう大丈夫ですからっ……」
「いいから黙って」
「……」
黙れと言われてしまうと黙るしかなくて、なるようになる、と課長に大人しくついていく。
どれくらい歩いたか、気が付けば目の前には一軒のお店が。
「……居酒屋?ですか?」
「あぁ。一杯付き合え」
有無を言わさない言い方にとりあえず頷いた。
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