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通されたのは奥の和室。
外観から見て思ってはいたけど、ここってまさか大分お高いお店なんじゃ……?
「腹は?減ってるか?」
「……いえ、食べてきたので全然」
「わかった。じゃあつまみ少しと……酒は?適当に注文していいか?」
「あ、はい」
女将さん、と言いたくなる上品な店員さんに幾つか注文すると、すぐに運ばれてきたお酒。
課長はビール、私はハイボールで乾杯をした。
優ともこうしてよく一緒にお酒飲んだなぁ、なんて。ジョッキを合わせながら今更楽しかった記憶を思い出す。
優もビールが好きで、私はいつもハイボールで。思い出せば思い出すほど勝手に切なくなって。止まっていたはずの涙が、またほんの少し滲んだ。
「というか、課長コーヒーは嫌いなのにビールは飲めるんですか?」
ふと思ったことを聞くと、馬鹿にしたようにこちらを向いて。
「酒は別物だ」
「いや意味がわかりません」
何故そこで得意気になるのか。
「炭酸だから飲みやすいんだ」
「へぇ……私は苦いからビールはあまり得意じゃないです」
「知ってる。お前会社の飲み会でもいっつもハイボールしか飲まないだろ」
「よくご存知で。ジンジャーが好きです」
「じゃあ二杯目はそれにするといい。無理矢理連れてきたから今日は俺の奢りだ。何も気にせずに好きなだけ飲め」
「ふふ、はい」
ハイボールが好きだなんて、言ったこともないのに。部下のことをよく見てくれているのだな、と嬉しくなる。
そして優は……なんて、また余計なことを思い出して考えて、そして落ち込んで。
お言葉に甘えよう。なんだか今日はお酒が進みそうだ。
「それで?何があったんだ」
「……」
「話したらすっきりするかもしれないだろ?まぁ、言いたくないなら無理にとは言わないが」
そう言ってビールをグイッと飲む課長。確かにビールは別物らしい。飲み方に躊躇が無い。
「……引きません?」
「それは話の内容次第だな」
「ご尤もです」
つまみに注文してくれた軟骨の唐揚げをコリコリと咀嚼してハイボールで流し込むと、意を決して口を開いた。
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