First

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季節は冬の終わり、三月。 「金山ー、ランチ行こう」 パソコンに向かっている時に掛けられた声に、時計を見上げる。 いつの間にお昼休みになったのか、全然気付かなかった。 言われてみれば、なんだかお腹が空いてきたような気がする。 「相田、今日取引先と会議の予定だったんじゃなかったの?」 「それが延期になっちゃって。だからランチ行こ」 「わかった」 別グループのチーフをしている同じ営業一課の同期、相田 眞宏(アイダ マヒロ)。 字面だけ見るとよく男性に間違えられるものの、歴とした女性である。サラサラの黒髪ストレートが取引先の男性社員からの評判も良く、部下からの評判も良く営業成績も良い。 「あれ?金山、パーマ掛けた?」 「わかる?前掛けたのが大分前だったから伸びた髪切ったらパーマ部分無くなっちゃってさ、デジタルパーマ掛けなおしたんだ」 「いいね、私直毛すぎてパーマ掛からない髪質だから本当羨ましい」 「私は相田のサラサラストレートが羨ましいよ」 「ははっ、隣の芝は青く見えるってね」 「本当ね」 ダークブラウンに染めた髪の毛は昔から癖毛でよくあらぬ方向に跳ねるため、定期的にパーマで癖毛を誤魔化している。 ついこの間美容室で髪の毛の傷んだ部分をバッサリと切ったら殆どパーマの掛かった部分がなくなってしまい、予定には無かったものの仕方なく掛けなおしたのだった。 私の髪の毛を一束摘んでまじまじと見つめる相田と他愛無い話をしながら向かうランチは、大抵自社ビルから数分歩いた所にある安くて美味い!と評判の定食屋。 この時期の雪解けの道は寒いしヒールでは中々歩きづらいものの、それでもそこに行く価値がある。 殆どが男性客だが、店主のおっちゃんとおばちゃんの威勢が良くて料理は美味しくて、私達はよく贔屓にしていた。 元々お昼はがっつり系を食べたい私たちはお洒落なカフェなどそういうところのランチだと物足りないことが多く、量より見た目のおしゃれを重視する他の女性社員と一緒にランチに行くことは少ない。 今日もいつも通りの定食屋で、一番人気の日替わり定食を注文した。
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