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「……婚約破棄されました」
「……は?」
「ついさっき。プロポーズされたレストランで婚約破棄されました」
「……」
反応に困ったか、課長の口からは何も言葉が発せられない。箸を置いた課長からの視線を感じる。
別に何か言って欲しいわけでも慰めて欲しいわけでもない。でも一人で抱え込むには私のキャパシティを遥かに超えていたようで。確かに話したらすっきりするかもしれない。
アルコールの効果もあってか、どうやら今日の私はいつもよりもお喋りなようだ。
「私の方が歳上だからって振られたんですよ。意味わからなくないですか?バリバリ働いてるのも向こうの母親が気に食わなくて猛反対しているって。本当、何言ってるのか理解に苦しみます。
親に反対されたからって振るくらいなら最初っからプロポーズなんてするなって話ですよ。まだ二ヶ月も経ってないんですよ?なのに別れてくれって。
天国から地獄に一気に突き落とされた感じです。彼との三年間って何だったんだろうって」
言いながら、また涙が溢れる。やはり思っていたよりも振られたショックは大きかったようだ。
差し出されたおしぼりでそっと涙を拭く。
「……好きだったんですよ。ちゃんと。私は結婚したかった。なのにこんなことになって……。私より古臭い考えの母親優先されて悔しいとか悲しいとか、そういうのももちろんあるんですけど。それよりも……なんか虚しいです」
息継ぎをする間も無くするりと飛び出した文句の数々に、課長はビールを飲む手を止めて私の話を聞いてくれる。
「あいつの荷物も、最初は着払いで郵送しようかと思ってたけど。結局箱用意するのこっちだしって考えたら捨てるのが一番早いことに気が付いたのでぜーんぶ捨てることにしました!家帰ったら早速捨てなきゃ!」
反対に私は何杯目かのハイボールを全て飲み干し、おかわりを要求。
課長の言うように基本的に私はザルだとよく言われる。飲むペースがゆっくりだから、たくさん飲んでも酔い潰れる事はほぼ無い。
しかし、今日はペースが早かった。そして疲れも溜まっていたのか、振られたストレスか。
「──ま、──やま、かなやま」
「……んんー……?」
見事に酔いが回ってしまった私は、肩を揺すられる感覚に重い瞼を上げる。
「金山、起きろ。飲み過ぎだ。そろそろ帰るぞ」
「ふぁー……い……」
「……珍しいな」
課長に呼ばれた気がした。しかし眠い。眠すぎる。
無理矢理立たされたらしい身体は課長の言う通り珍しく言うことを聞いてくれなくて。ふらついて上手く歩けないのを課長が支えてくれている気がする。
タクシーに乗せられたところまでは覚えているものの、
「金山?……こりゃまいったな」
気が付けば再び眠りに落ちていた。
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