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柔らかくて暖かい。
ゆっくりと目を開けると、薄暗い空間の中の真っ白な天井が目に入る。
何だか、怖い夢を見た。凄く怖い夢。ただ内容は全く覚えていないが。
まだお酒が抜けていない頭はボーッとしていて、状況を理解するのに数分を要した。
「んー?……あれ……?ここどこ……?」
また閉じそうな目を無理矢理開けて、周りを見回す。
ぼんやりと見えるモノトーンを基調としたシンプルな家具が並ぶ部屋。しかしテーブルや椅子は見当たらない。どうやらここは寝室のようだ。
「え、っと……確か飲みに行って……」
うっすらと色々思い出してきたら急に変な汗が出てきた。
「……うわ……やっちまった……」
記憶が無くなるまで飲むなんて、いつぶりだろうか。
酔っても吐くことはないというのが唯一の救いか。
それでもやってしまった感が酷く、今すぐどこかに逃げてしまいたくなるほどに激しい自己嫌悪に陥った。
私の自宅ではない。全く知らない部屋。
「どう考えても課長の部屋じゃん……」
自分の呼気からアルコールの匂いがして、それもまた嫌気が差した。
……とりあえず謝りに行こう。
ふかふかのダブルベッドに寝ていたらしい私はゆっくりと体を起こし、ふらつく足で立ち上がってドアを開けた。
ドアの向こうは廊下で、右側が玄関で左側がどうやらリビングらしい。
明かりがついたリビングのドアを恐る恐る開ける。
寝室と同じくモノトーンで揃えられた家具。
その中央にあった革張りのソファに腰掛けた飛成課長。
私がドアを開けた音に気が付いたのか、こちらを振り向いて私の姿を認識するとすっと立ち上がった。
「……起きたか」
「えっと、今は何時でしょう……?」
「二十三時。二時間くらい寝てたんじゃないか?」
「な、なるほど……」
どうやらよく寝ていた様子。
「……ここは課長の……ご自宅でしょうか」
「あぁ。タクシー乗った瞬間お前爆睡し始めて住所聞きそびれたからな、鞄漁るわけにもいかないし仕方無く」
「……大変ご迷惑をおかけしました……」
土下座したい勢いだが、生憎まだアルコールが残った身体では頭を下げるのが精一杯で。
そんな私を怒るでもなく、迷惑そうにするのでもなく。課長は「ほら、こっち来いよ」と優しく手を引いてくれて。
メイクもよれて酷い顔をしているだろうに、私をソファに座らせるとコップに水を入れて持ってきてくれた。
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