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「そう言えば、彼氏とは最近どんな感じなの?」
運ばれてきた日替わり定食の味噌汁のお碗を持ちながら口を開いた相田に視線をやると、綺麗にアイラインを引いた猫目をグッと垂れさせてニヤニヤしながらこちらを見ていた。
驚いて口に運ぼうとしていたサバ味噌を落としそうになり、慌てて食べてから一息吐く。
しかしその一部始終を見られていて。
……なんだか嫌な予感しかしない。
「あれぇー?その反応は何かあったな!?」
「……いや、別に」
「教えなさいよ、そんな顔真っ赤にされたら気になるじゃん」
「えー……」
恋愛話は昔からどうも苦手で、彼氏ができても中々人に言えないタイプの私。
付き合って三年になる彼氏がいるのだが、何故か誰にも言っていなかったのに相田にはすぐバレた。
どうやらデートを社内の人間に目撃されたらしく、すぐに噂が回っていつのまにか相田に辿り着いたらしい。
それ以来ちょくちょくこうやって私と彼氏の近況を聞きたがる。
付け合わせのお漬物をカリカリと咀嚼しながら、彼氏の顔を思い浮かべた。
……まぁ、報告したいことが無いわけでもないんだけども。
日替わり定食を食べ終わり、お冷やを飲んでから一つ咳払いをして。
ワクワク顔で待っている相田に呆れた視線を投げかけながらも、そっと口を開いた。
「相田には言ってなかったんだけどさ」
「うん、何々?」
「実は、……結構前にプロポーズされた」
恥ずかしくて、語尾が段々とか細くなった。
まだ両親にも言っていない。初めて誰かに報告した。
しかし相田は何も言わない。
もしかしたら聞こえなかったかも。そう思ったものの、それはどうやら杞憂だったようで。
「え!?えぇ!?聞いてないんだけど!」
たっぷりと数秒置いてから、鼻息荒く目を見開いてこちらに身を乗り出してきた。
「え!?ちょっと待って!?結構前って何!?私聞いてない!」
「相田!うるさいよ!落ち着いて!」
声を荒げる相田を慌てて嗜めて、周りのお客さんに謝罪の意味を込めて会釈をする。
ひとまず相田を連れてお会計をし、お店を出た。
「ちょっと!今日の夜飲みに行くわよ!」
興奮冷めやらない相田は、私の腕を掴んで離してくれない。
「えぇ……?急だなあ」
「いいの!根掘り葉掘り聞くから覚悟してなさい!」
「マジか……」
どうやら逃げる術は無い模様。
これは、今日の夜は長くなりそうだ。
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