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「……優」
「歩!久し振り!元気だったか?あれから連絡取れなくなって俺心配で……」
私だとわかると優は勢い良くこちらに駆け寄ってきて。街中だということを忘れているのか大声で私の手をギュッと握りしめて嬉しそうに話しかけてくる。
優の連絡先は振られた後にすぐに拒否設定をしていた。
もう思い出したくなかったから。
それなのにこんな街中で出会ってしまうとは。
こんなことなら二次会行くべきだったか。
「辞めて。目立つし私もう帰るところだから」
「そんなこと言わずに、久しぶりに会ったんだからどこか一軒寄って行かないか?酒の匂いはするけどどうせお前まだ酔ってないだろ。飲み足りないんだろ?」
私のことをよく知っているその言い方に、腹が立った。
「帰るって言ってんでしょ」
「いいだろ。別に他人ってわけじゃないんだし」
「何言ってるの?もう他人だよ?無関係でしょ、私達」
優って、こんなに話通じない人だったっけか。
私のことを振ってから、何かあったのだろうか。
そんなことはどうでもいい。もう飲み直す気分でもないし私はもう帰りたい。
そう思うものの中々手を離してくれない優に、どうしたものかと頭を抱えたくなっていた。
──そんな時。
「……俺の恋人に何か用ですか?」
急に後ろから腕を引っ張られ、優から強制的に剥がされた手。
そのまま私の体を自分に引き寄せるように腰を寄せたその大きな手に、何故か泣きそうになった。
「……課長?」
「何なんですか貴方。いきなり出てきて。歩を離してください」
「もう一度聞きます。俺の恋人に何か用ですか?」
「こ、恋人?……おい、歩!どういうことだ?」
……いや、そんなの私が聞きたい。
久しぶりに感じる課長の香りに、抑えていた感情が溢れそうになる。
……どうして。
聞きたい事は山程あるのに、どうしてか固まったように声が出てこない。
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