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「どういうことも何もそのままだ。お前、何堂々と人の彼女に手出してんの?」
「だっ、て……歩は俺の婚約者で……」
優のその言葉を聞いた時に、課長がピクリと反応したような気がして。
「あぁ、お前か。馬鹿みたいな理由で婚約破棄してきた男って」
合点がいったのか、そう呟いて納得したように数回頷く。
その間も腰に当てられた手は尚も私を抱きしめるように強く引き寄せてきて。
必然的に私の手は課長のスーツの裾を掴む。
「歩はもうお前の婚約者じゃねぇの。自分でこっぴどく振っておいて今更なんなわけ?」
「……」
さりげなく呼ばれた"歩"が、私の心臓を抉る。
どうして助けてくれるの?
どうして守ってくれるの?
どうして。あんなに酷いことを言ったのに。
そんな思いが頭の中をぐるぐると巡る。
その間も課長は優を嗜めてくれていて。
「行くぞ」
その声と同時に腰を支える手が私を歩かせて。
その場から離れる時、優は下を向いていて。
その顔を見る事はできなかった。
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