Sixth

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一週間後。 私はとあるイタリアンのレストランで、恭子さんと対峙していた。 何故そんなことになったのかと言えば、定時で上がろうとしたらいきなり恭子さんに拉致られた。 "ちょっと金山ちゃん借りまーす!"だなんて叫ぶものだから、皆呆気に取られたような顔をしていた。 当の私も訳が分からないまま連れ去られていきなりここに連れてこられ、 「はい!何でも好きなもの頼んでね!私の奢りだから!」 と言われてメニューを目の前に広げられて困惑している。 ……いや、どういう状況? 「あの……えっと、私に何かご用ですか?」 「え?あぁうん。とりあえず食べてからと思ったんだけど……あんまりお腹空いてない?」 「いえ……適度に空いてはいます」 「じゃあまずは食べよう!」 「……はぁ」 とにかく食べてから!と、これ好き?あれは?こっちは?と私が好きかどうかをその都度聞きながらいくつか注文した恭子さん。 にこにこしながら目の前に座る恭子さんに、私は何も言えずに頼んだものが来るまでお水を飲んでやり過ごした。 特に恭子さんが喋るわけでもないため、しばらく全く会話が無いというある意味地獄のような数分を過ごした。 「お待たせ致しました。ジェノベーゼとボロネーゼのパスタです」 「ありがとうございまーす」 「セットのサラダとスープです。ごゆっくりお召し上がりください」 失礼いたします。と言って去っていったスタッフさんに会釈をすると、 「さぁ、食べようか」 と言われ、一先ず食べることにした。 とても美味しいパスタを完食し、食後のカフェオレまでご馳走になってしまった私はビクビクしながら話が始まるのを待つ。 恭子さんがブラックコーヒーを飲み切った後、視線が交わった。 「……ごめんね、金山ちゃん」 唐突な謝罪に、狼狽た。 「……恭子さんに謝られるようなことは特に無いと思いますが……」 何かあっただろうか。真剣に考えるものの特に思い当たるものはない。 「……綾人のことよ」 そう言われてようやく今日拉致られた意味を理解した。 「私のせいで誤解させて、二人が付き合うのに遠回りしたって聞いたの。綾人も綾人だけど、私も私だったわ」 「……いえ、お気になさらず」 「綾人は昔から仕事人間だったからあまり色恋沙汰は得意じゃなくてね。言ったことあったかしら?私達ね、昔付き合ってたの」 「綾人さんから、聞きました」 実際にはその前に盗み聞きしてしまったけれど。 「じゃあ別れた理由も知ってる?」 別れた、理由。 「それは聞いたことない、ですね……」 「私達が同期なのは知ってるでしょ?」 「はい」 「付き合い始めたのは、入社して一年経ったくらいだったかなあ。 別れた原因はね、私なの。私が欲深かったからなのよ」 そう言って思い出すように、恭子さんは昔話を始めた。
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