Sixth

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「なぁ恭子。来週のことなんだけど」 「あ、ちょっと待って。これだけ終わらせてもいい?」 「……あぁ。わかった」 「──ごめんごめん綾人。えっと、来週だっけ?何かあったっけ?どっか行くの?」 「……いや、やっぱりいいや」 「そう?わかった」 事の発端は、恭子さんが仕事大好き人間だったことが始まりのようだ。 毎日のように進んで残業するほど、仕事が大好きで自分の仕事に誇りを持っていた。 恭子さんの夢は、いつか東京本社で仕事をすることだった。 本社ではもっといい環境で開発ができる。 引き抜き以外では特に支社間の移動は無い会社。本社で働くには支社で実績を積むことだけだった。 そんな時に来た、本社への異動の打診。 丁度良いタイミングで欠員が出たらしく、新人を補充するよりも即戦力を支社から引き抜いてすぐに新しいプロジェクトを始められる方が良かったらしい。 そこで白羽の矢が立ったのが当時ヒット商品をいくつも開発していた恭子さんで。 しかし恭子さんは喜ぶと同時に、悩んでいた。 「……行ってこいよ」 「でも、行ったら私、多分帰ってこない」 「あぁ。わかってる。でも俺の感情だけでお前の将来を邪魔をすることはできない。恭子が行きたいんだろう?出来ることなら本社で働いてみたいって、ずっと言ってたじゃないか」 「……うん」 「俺のことは気にしないでいいから、行きたいなら絶対に行った方がいい。今を逃したらこんなチャンス、二度と無いかもしれないんだから」 そう、綾人さんは恭子さんの背中を押した。 しかしそれは同時に、二人の別れを意味していた。 二人は付き合い始めた頃に、話していたのだ。 "遠距離って、どう思う?" "俺には無理。遠距離になるならそのまま別れる" "私も同じ考え。会いたい時に会えないのは嫌だもの" 「……私は遠距離なんて耐えられない」 「……俺の考えも、変わらない」 再確認した二人は、そのまま別れて別々の道を進んでいくことになった── ── ─── ─────
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