Sixth

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それから一ヶ月が経過したある日。 「金山さん、この後食事でもいかがですか?」 「え、あ、すみません。この後は先約が入っていまして……」 「それってもしかして、恋人とかですか?」 「え!?」 どうして私は、今こんな状況なのだろうか。 「彼氏いるんですか?俺、実は初めて会った時から金山さんのことずっと気になってて。今回【R.foods】さんとの打ち合わせのアポ取った時に金山さんいるかなって、楽しみにしてました!」 「は、はぁ……」 「彼氏いないなら、俺と付き合ってみません?」 「え、いや……ごめんなさい。私今は誰とも付き合う気無いので……」 「えぇ!?ショックだ……」 この人がショックかそうじゃないかなんて、関係無いのだ。 私は今、私のすぐ近くで一部始終を見ていた綾人さんの凍てつくような視線が恐怖で仕方ない。 いや、私に向けられたものではないのだけれど。 目の前の彼に向けられているのに全く動じていないことに疑問すら浮かぶ。 どうして今こんなことになっているのかと言うと、 時を遡ること数時間前。 以前綾人さんと二人で出張に行った際の取引先、【KK】の堀井さんがうちの営業一課に来た。 どうやら綾人さんと打ち合わせのためにわざわざ東京から出張に来た様子。 今回は私は招集されていないから、知らなかった。 会議室に入って二時間程経過した後に出てきた堀井さんは、何故か真っ先に残業中の私の元へ来て、今に至る。 以前見た時は、こんな軽い感じだとは思わなかったんだけども……。 「堀井さん」 「……どうしました?飛成課長」 ニコニコと私を見つめる堀井さんに綾人さんが声を掛けた。 「っ……」 綾人さんの顔を見て、私は思わず息を飲む。 営業スマイルはそうなのだが、その笑い方が怖い。 その笑顔の裏で何を考えているのか、考えただけで恐ろしい。
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