Seventh

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「たくさん作ってきてくれたから半分は明日食べるか」 「はい」 「どれも美味そうで驚いた」 「ハードル上げないでくださいよ」 「いいだろ。匂いからして絶対美味いのはもうわかってんだから」 「っ……」 そんな嬉しい言葉を噛み締めていると、 「食べていい?俺腹減ってんの」 「もちろんです。どうぞ」 頷くと凄い勢いで食べ始めた綾人さん。 「……どうですか?」 味が口に合うかが不安で、恐る恐る尋ねる。 しかしそれは杞憂だったようだ。 「んまい。美味いよ。塩加減も丁度いい。俺好み」 「……良かったあ……」 何度も味見をして作った甲斐があったようだ。 肉豆腐を嬉しそうに頬張る綾人さんにホッとして、私も箸を手に取った。 食べ終わると、 「風呂入れてくる」 と席を立った綾人さん。 「あ、はい……」 何も出来ずにお茶を飲んでいると、数分で戻ってきた綾人さんは私の隣に座り、そのまま優しく抱きしめてくれる。 「……堂々と恋人がいるって言ってくれたの、かなり嬉しかった」 「……嘘付くの、あんまり得意じゃなくて」 今までも何度も彼氏はいないって嘘をついてきたけど、その度に罪悪感がすごかったのは事実。今後は、"恋人がいる"くらいなら言ってもいいのかもしれない。 相手が綾人さんだということは堀井さんには一言も言っていないけれど、それでも嬉しかったと、綾人さんは微笑んでくれた。 「本当は宣言できれば一番いいんだけどな」 「……でも、異動しなきゃいけないんですもんね」 「あぁ」 できれば一緒に働きたい。 一番近くで、綾人さんが生き生きと仕事をしているところを見たい。 そんな邪念はあるけれど、それ以上に営業という仕事が好きで、誇りを持っている。まだまだやりたいこともあるから、異動はしたくないというのが本音だ。
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