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80.そういえば寿命ってどうなってる?
ベリアルが文句を言ってくれたので、二度と毒入り菓子が届くことは無くなった。正確には、送り付ける国ごと消滅したんだけど。なぜ穏便に話し合いが出来ないのか。そう考える僕の方がおかしいのかも……この頃は自分の倫理観が揺らいでいる。
弱肉強食が当たり前の世界なので、この世界で生きて死ぬなら……ん? 僕の寿命ってどうなったんだろう。一本ツノが生えた狼に入ってるけど、そもそも本体はツノだ。ツノに寿命がないから、今まで数百年生きてきた。うーんと悩む僕は、答えが出ない質問をシェンにぶつけた。
『僕の寿命って、どうなってるの?』
「理の外のことは知らん」
…………あっそ。
「琥珀王も同じだが、もしかしたら二人とも死ねないかもしれないぞ」
古龍でさえ数千年で生まれ直す。これは知識や記憶を持ったまま、新しい体に転生するらしい。その体も単体受精で生み出すので、完全体というやつか。
『僕も単体で分離するのか』
同じと考えたが、あっさり否定された。
「予想でしかないが、このまま生き続けると思うぞ。二人とも性別があるからな」
理由はそこか。確かにシェンは一見すると男性のようだが、龍になると性別がない。本体に性別がないツノである僕はいいとして、琥珀も同じなのが不思議だった。
「この世界に理を作った存在は、男女二人で一体だ。その意味で、お前らは近いな」
意味が分からない。それって男女の神様がいると思ったら雌雄同体だったってこと? あれ、全然違う。
「閃くままに話してるから、内容を説明は出来ない。だが我がそう感じるなら、それが事実だろう」
管理者とはそういう存在だ。言い切ったシェンに、僕は納得できないまま頷いた。最終的に、僕が知りたかった寿命は不明だ。おそらく長く生きるだろう、程度。普通の狼みたいに数年で死ななければいいや。
少なくとも琥珀が大人になって独り立ちできるまで、見守りたいからな。
「何話してたの? 僕にも教えて。早く教えて」
母親が別の家の子と仲良くしてることに嫉妬するような琥珀の態度に、苦笑いしながら簡単に話して聞かせた。ここで誤魔化すと、いつまでも拗ねて大変なのだ。別に聞かせて困ることでもない。
「シドウはね、僕のお嫁さんだからずっと一緒だよ」
可愛い子どもの言うこと、無邪気な願いであり希望だ。なのに、どこか背筋が凍るような執着を感じた。
「まあ、間違いなく……琥珀王が存命のうちは死なせてもらえないさ」
安心しろとでも言うように、シェンは肩を竦める。この頃は集落の人々の溜まり場と化した自宅の三階で、窓の外を見つめた。青空がいやに目に沁みるな。
シェンの言葉通り、僕がうっかりミスで死んでも、ベリアルと共謀して無理やり蘇らせるはず。嫌じゃないけど、ちょっと怖い。先に体が寿命を迎えてゾンビ化しないだろうか。
「無駄な心配はするな! なるようにしかならんさ」
一番いい加減そうなのに、古龍シェンの言葉は説得力があった。
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