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2.子猫のおやつとして捕獲される
空間移動で帰還した勇者一行は、神殿らしき天井の広い広間に倒れ伏した。駆け寄った人々が彼らを介抱し治療して運んでいく中、僕は蹴飛ばされた。わざとじゃなく偶然だよね。足元に落ちてたツノに気を払ってくれる奴なんていないし。
転がった先は神殿の祭壇の下で、身動きできない僕は足音や騒ぎを聞くだけ。困ったな、手足がないから動けないんだけど。あと、向きが悪くて外の様子が見えないし。掛かった血もべたべた気持ち悪い。
「魔王を、倒した……だがっ」
必死に剣士が告げた言葉に、歓声が上がる。続いて悲鳴が聞こえ、勇者が命を落としたことを知った。さっきは元気そうだったけど、人族は脆いから。声を聞き分けながら状況を判断する。力不足を嘆く神官の声が祈りに変わり……やがて広間から人が出て行った。
沈黙の中、助けを呼ぶ僕の声は誰にも届かない。
まあ、いつものことだ。この声が聞こえる人に出会ったことがなかった。動けないのも慣れたし、勝手に魔力を使われるのも諦めた。静かな部屋の中、僕は自分も魔法が使えたらと夢見る。膨大な魔力はあるが、それどころか体自体が魔力の塊なんだけど……使う方法が分からない。
しばらくして、ふと寒さに身を震わせた。寒気? なんで? 目の前に大きな金色の瞳が二つ、じっと僕を見ている。音もなくじりじり近付いた獣は、僕をぺろりと舐めた。悲鳴を上げる。
僕を咥えた獣は外に出て、ことりと床の上に置いた。ちょいちょいと指先で僕を突く。これ、猫だ。魔物で猫の魔獣を見たことがあるし、前世で見た。活発で好奇心旺盛なんだよな。魔王と一緒に過ごしたから、魔族の知識は豊富だった。爪でからからと回した後、猫は僕を再び咥えて運び始めた。
神殿の建物から出て、外で……いきなり猫が飛び上がる。驚いたが実害はなかった。音もなく歩く猫は塀から屋根に移り、やがて小さな小屋に入っていく。そこには子猫が数匹、明らかに大きさも種類も違う何かの子が一匹眠っていた。
ぽろっと僕を落としてにゃーと鳴く。子猫達が飛び起きて、僕に噛み付いた。蹴ったり爪を研いだり、痛いけど我慢だ。どうせ泣き叫んでも聞こえない。そう思ったのに、がりっと先端を齧られて悲鳴を上げた。
やめて! すごく痛い!! 噛まないで!!
「かわいそうだよ」
子猫達を押しのけて、僕を拾うのは何かの子……人族に似てるけど、人族じゃない。温かな手が僕を包んだ。
「ないてる」
僕はツノだ。魔王の魔力の源で、気づいた時から彼の一部だった。ずっと魔王の付属品だ。魔王はツノを自慢にしてたし、きちんと手入れもしてくれた。でも声は届かなかったのだ。前世の記憶があるから辛い。もし生まれた時からの記憶しかなく、ツノとして生きた人生しかなければ……きっと平気だったのに。
沈んだ気分の僕に、温かな手の主は頬をすり寄せた。
「きこえる、ないてるよ」
聞こえてる? 僕の言葉や声が……君には届いてるのか。驚いた僕に、短いツノを持つ子どもは頷いた。
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