74.この国を滅ぼしに来た?

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74.この国を滅ぼしに来た?

 結論から言えば、この国の国王は間に合わなかった。塔は完全に砂の山となり、その隣の建物も半分以上砂になったところで、宰相を名乗るおじさんに案内される。ちなみに隣の建物は騎士団の宿舎らしく、取り囲む騎士から悲鳴が上がっていた。 「魔王の地位を継いだ琥珀王だったか? わしがこの国の……」  国王だと言う前に、悲鳴が上がる。琥珀は不貞腐れて機嫌が悪く、通された謁見の間を砂に変え始めた。まず入口の扉が砂になって積もり、その上に壁が崩れていく。 『琥珀、どうしたんだ。気分が悪いのか』 「僕のこと上から見下ろした、嫌い」  子どもらしい感想に、ロルフが相手側に伝える。だが国王や宰相はパニックになっていた。入口の扉を守るはずの衛兵はさっさと逃げ出し、天井まで届いた砂化はさらに加速するばかり。 『あのおじさんは足が短いんだ。だから高い位置に立たないといけないんだよ。琥珀は足が長いから我慢してあげられるね?』  どうせ僕の声は人間に届かない。高を括ってそう告げた。魔術師の杖を持った若い女性が「ぶふっ」と変な吹き出し笑いをする。ごめん、魔術師だと聞こえちゃうのか。昔と違って魔力を込めた声だからね。魔力の扱いに長けた人には届いているらしい。  他にも杖を持った老人が真面目な顔なのに、痙攣してる。あの人も魔法が使えそうだ。僕の声が聞こえた人を順番に確認した。いきなり攻撃されたら反撃しなくちゃいけないからな。 「足が短いなら我慢する」  ぼそっと呟いた琥珀に、堪えきれなかったロルフが「ぶふぉお!」と押さえていた手を押し退ける笑いを零した。もう台無しだよ。 「琥珀王、これでは話し合いになりませんので、砂にするのは後にしてもらえますか」  笑った失態を隠そうと、ロルフが遠回しに琥珀の機嫌を窺う。少し考えて頷いた琥珀が魔力の放出を止めた。崩れかけの天井や壁が、ぐらりと傾いて地に落ちた。これは二次被害なので無視だ。 「さて、貴国は圧倒的強者との接し方を知らないご様子。我が王は機嫌を損ねておられる。今は我慢してくださっているが、もし……これ以上機嫌を損ねるなら、王宮どころか国ごと消失させかねませんな」  難しい単語が多かったので、琥珀はきょとんとした顔で僕を見た。解説して欲しいのか? 琥珀に理解できる言葉に置き換えると。 『この国は足の短い王を含めて、強い琥珀に失礼だろ。だから琥珀が砂場を作ってる。ロルフが言うからやめたけど、ちゃんとしないとやっつけるぞ! そうしたら建物全部壊して、平らにするかな……みたいな感じ』  通訳された内容に、琥珀は納得したらしい。大きく頷いた。魔力を通した僕の声を聞き取れる人達が青ざめていく。あれれ、そんなに大きな声で話したつもりはないんだが。そっちまで届いちゃうのか?  ぺたんとお座りした僕の首元のマフラー部分に抱き着いた琥珀は、顔を埋めてくんくんと匂いを嗅ぐ。それで気持ちが落ち着いたらしい。顔を上げた時はきりっとした表情だった。 「僕は琥珀王。この国を滅ぼしに来た」 「ん?」 『え?』 「「「「「えええええ?!」」」」」  思わぬ宣言に、敵味方関係なく固まる事態となった。
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