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77.壮大な砂の王国を作ったらしい
『悪夢だ』
呟いた僕を心配そうに撫でる琥珀の手は、子ども体温で温かい。嫌がる耳を避けて間を撫でる気遣いはありがたいが、それを他人に発揮できないのはどうなんだろう。僕らはどこかで教育を間違えたのか? それとも琥珀自身の素質だったり?
「嘆くことはありません。ロルフから聞く限り、かなり失礼な態度でしたし。舐めた態度の相手を叩くのは賢い選択ですよ」
間違っていませんと、ベリアルは笑顔で肯定する。満足げに笑う琥珀……項垂れる僕が間違ってる気がしてきた。ベリアルが知らせたのは、昨日脅しをかけに行った国が、砂の王国になった事実だ。無機物はすべて砂に変わり、命ある者だけがおろおろ動き回ってるらしい。
無機物と断定されたのは、食材や宝石、家具といった何もかもが砂に変化したためだ。もちろん建物が残っているわけもない。噴水があった広場も、観賞魚を残して砂になった。地面に生えた草は生き残ったし、もちろん家庭菜園の野菜やペットも生きている。ちなみに観賞魚は砂の上で瀕死だったので、見つけたベリアルが川に放してあげたとか。優しい。
『琥珀がやったのか?』
「うん!」
褒めてもらえると思った琥珀は、嬉しそうだ。尻尾があったら全力で振り切ってるだろう。目を輝かせる幼児の脇を、元気よく子狼が走った。後ろを母猫ニーが唸りながら追いかける。あれこれと留守にする僕に代わり、ニーが子狼の面倒を見てくれていた。お陰で狼なのに毛繕いが上手になり、時々「ぅにゃー」と鳴く。
いけない、思わず現実逃避してしまった。
『理由を聞いてもいい?』
叱る前に理由を聞いて、事情を理解する必要がある。確かに対応が失礼だったし、琥珀が舐められて危害を加えられる可能性があったなら、不可抗力だった。そう自分に言い聞かせないと、罪悪感がすごい。
「あの国に行ってから、シドウは具合悪くなった。やられたらやり返す!」
「さすがです、琥珀王」
「おう! 邪魔するぞ。昨日は派手にやったな、今度は我も混ぜてくれ」
シェンが窓から入り込む。絶句した僕は注意するのも忘れて、彼らを凝視した。魔族と古龍、どちらも攻撃的な種族だ。琥珀がしたことが異常だと思ってない。もしかして僕がおかしいのか? この世界で異端者なのかも。
「シドウ、具合悪い? もっとやっつけてくる?」
『やっつけなくていいよ』
次からはやっつける前に相談して欲しい。だがそう願ったら、琥珀は素直に受け止めて律儀に守ろうとする。その結果、危害を加えられても反撃しないかも知れない。あれこれ考えたら何も言えなくて、今日の襲撃を止めるだけに留めた。
「琥珀王の名も広まったし、これで他の国は動かないだろ」
満足げなシェンの言葉に、結果よければすべて良しと自分を納得させた。早くこの世界の考え方に染まらないと、僕が辛い。優しく撫でる琥珀が僕を抱き寄せた。
「シドウは僕のお嫁さん、僕が守るんだよ」
『あ、うん。お願いします』
嬉しそうに笑う琥珀を見ながら、彼が幼子であることに心の底から感謝した。成人してたら、襲われる心配しないといけなかったし。しばらく家族ごっこしながら……うん、琥珀が幸せならいいや。基準をすべて一点に絞ることにした。
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