78.勝手に城に住み着く奴が多過ぎる

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78.勝手に城に住み着く奴が多過ぎる

 宣戦布告にしか見えない騒動から3年――。  琥珀王に逆らう恐怖を目の当たりにした人間は、すっかり大人しくなった。現時点で新たな勇者が生まれない。世界の(ことわり)を管理する古龍シェンによれば、琥珀はイレギュラーだった。  現時点で魔王ではないので、勇者の討伐対象にならない。さらに琥珀が王になっても他種族への侵略を行っていないため、理は反応しなかった。最強のお子様は野放し状態なのだ。 「そんなことないさ、シドウがちゃんと管理してるからな」 「ふむ。琥珀王はシドウ殿には従うからな」  バルテルとシェンは酒を飲みながら、僕を肴にする。お前ら、他人の家に入り込んで図々しいぞ。酒はバルテルが、ツマミの干し肉をシェンが持ち込んだ宴会は、非常に盛り上がっている。 「おう! こっちの酒もどうだ?」 「俺は明日休むぞ」  当然のように上がり込んだ森人達は、好き勝手な場所で集団を作って飲み会をする。琥珀城の一階に風呂を作ったのがいけなかったのか。最近では上階に住み着く者も出てきた。ツリーハウスの文化が廃れて、この城に全員居住する日も近い気がする。 『なんでこうなったんだ?』 「琥珀王は人気がありますからね。それにシドウ、あなたも森人に好まれるタイプですよ」 『え? そんなの初めて聞いたけど』  森人は基本的に他種族と争うことをしない。それは穏やかという性質以外に、面倒だからの部分が強いのだとか。その面倒ごとを一手に引き受ける僕は、彼らにとって救世主らしい。  確かにこの集落に来て風呂文化を作り、魔族の干渉を排除した。人族の宣戦布告も叩きのめしたし、新しい料理を伝え、狩りの道具も開発したけど。前世の知識チートと琥珀の魔力チートによる恩恵が大きい。僕は()()()異世界人だったんだから。 「異世界人である時点で、平凡はあてはまりませんね」  くすくす笑うベリアルに諭され、それもそうかと笑った。母猫ニーが大きなお腹を揺らしながら、ベリアルの膝に飛び乗る。3匹の子猫を育て終え、ついでに僕の子狼も育てたニーはまた妊娠した。魔猫の子ではないかと噂されているのは、腹が異常に膨らんだためだ。  魔猫は体が大きい猫だから、赤子も大きいのかも知れない。先輩ママの貫禄たっぷりに腹を撫でさせ、あちこちで餌をもらい歩く。逞しい彼女は今も琥珀にとって母親に近い存在だった。 「ニー、もうすぐ産まれるね」  人間から献上された毒入り菓子をぼりぼり齧りながら、琥珀はけろりとした顔でこちらに寄ってくる。 『琥珀、欠片を落とすから座って食べて』 「わかった」  少し離れた場所に大人しく座る。食べ終えたら魔法で浄化して、食べ残しの粉を綺麗に消し去った。まったく毒が効かない上、毒のほろ苦さが癖になった琥珀は、献上される毒入り菓子を平然と食べる。子猫が産まれたら外で食べるように指導しなくては。  間違えて粉を舐めたり、食べ残しを齧る事態になれば惨事だった。 「ところで、琥珀王。人間への警告はどうなさるのですか?」  服従したくせに毒入り菓子を贈ってくる彼らに対し、ベリアルはお怒りらしい。まあ、主君に毒を盛る属国がいたら、不満に思うのが普通だろう。
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