81.周囲に教育を任せた僕が馬鹿だった

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81.周囲に教育を任せた僕が馬鹿だった

「シドウ、一緒に寝よう」 『仕方ない、ほら』  ぐるんと丸まった僕の腹部に顔を突っ込む琥珀を受け入れる。いつまでも子どもだが、考えてみたら拾った頃が4歳前後、あれから3年一緒にいたから推定7歳だ。幼いのも当然だろう。  両親が不明だから種族は分からないが、魔力量からして人間ではないとベリアルが断言した。シェンは神様に近い何かと曖昧に表現する。どちらも否定できないな。僕としては、琥珀が長く生きてくれるのは嬉しい。僕自身がツノとして数百年生きたから言えるが、たまにはいいこともあった。魔王アスモデウスを愛するベリアルが、大切そうにツノを磨いてくれた日を覚えている。口には出せないけど。 「僕以外のこと考えてる?」 『うん? そうだな、昔のことを思い出してたよ。琥珀も7歳だなって』  嘘はつかないようにしてる。だが誤魔化すぞ。正直にすべて話すと、琥珀が暴走するからな。思わぬ方向へ勘違いすることも多くて、未来の嫁に対する態度みたいだった。本当に嫉妬深い。 「僕はシドウと出会うために生まれたんだよ」  ……どこでそんな口説き文句を覚えてきた? 『そっか。ありがとうな、誰に教わったんだ?』 「シェン。口説く時は、心の中に浮かんだ言葉を素直に言えって」  色男のセリフだが、琥珀は含まれるのでセーフか。心に浮かんだ言葉を素直に口にした結果が「君に会うために生まれた」になる辺り、僕が教育していない部分が怖い。ベリアルやシェン、森人が面白がっていろいろ教えるから、妙な言葉や習慣を覚えてるんだよな。しかも記憶力が抜群にいい。  もぞもぞ動く琥珀がくすぐったくて叱ろうとした僕の目に、思わぬ光景が飛び込んだ。毛が薄い腹部に顔を埋める琥珀は、見つけ出した乳首を咥えている。 『琥珀、そこは子狼用だから離して』 「やだ! 人の交尾はこうするって聞いたもん」 『僕、琥珀とは交尾しないよ』  セックスと言われるのと、交尾と表現されるの。どっちがマシか。迷った末にそのまま交尾で返してしまった。これを吹き込んだのもシェンだな? 後できっちり言い聞かせないと! 「嘘だ! バルテルもベリアルも、アルマも。僕のお嫁さんはシドウだって言った!! うわぁああああ!」  大声で泣きだしてしまい、上の階まで声が聞こえたらしい。数人の森人が覗きに来た。睨んで追い返す。というか、この建築物の防音性は最低レベルだった。気を付けないと話が筒抜けだ。こういう時は、恥ずかしいが厨二呪文だ。 『風よ、沈黙を与えよ。我らが外に聞く者はなし』  すらすらと出てきた自分が怖い、恥ずかしい。両手で顔を覆いたいが、肉球と引っ込まない爪なので我慢だった。琥珀がぐずぐず泣きながら、僕の腹を揉む。あ、やめて。それ……乳が出やすくなる揉み方。 『琥珀、落ち着いて。僕は中身がオスだから結婚できないよ』 「体がメスなら結婚できるもん、ベリアルがそう言ってた」  ろくなことを教えない大人達を心の中で罵る。ついでに頭の中で往復ビンタもくれてやった。 『種族が違うから、ほら。僕は狼だろう? 琥珀は人と同じだか……え?』  見る間に琥珀が毛深くなり、一瞬で目の前に白い狼が現れた。僕の顔をベロンと舐めたところで、意識がなくなったみたい。酷い夢を見たもんだ。明日になればきっと解決してるさ、そうじゃなかったら泣く。
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