おまけ 職権乱用してもらえないか聞いてみたところ、それはできないと断られてしまった件

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おまけ 職権乱用してもらえないか聞いてみたところ、それはできないと断られてしまった件

「そういえぱ、彼女がこんなにメンタルやられてるんだからって、人事部長のお力でもって次回の人事でなんとか開発に戻して頂くって訳にはいかないんですかね?」 ダメ元で職権乱用を提案してみると、案の定 「そうしてあげたいのは山々ですけど、それはできないんですよね。」 との回答。 やっぱりね、と肩を落とすと 「職権乱用がどうとかというより、人事のほうから特定の人を名指しで移動させるっていうことは、実はよっぽど当人に問題がない限り、しないものなんですよ。」 と、更なる衝撃の事実を聞かされる。 え、え、あんな偉そうにしてるのに、じゃあ人事の権限って一体何さ??驚きのあまり目を丸くする私の隣で申し訳無さそうに更に佐藤俊生は口を開く。 「各部署の人員の調整と最終的にどこに移動させるのかピックアップなんかはしますけど、一番最初に移動させる為のふるいにかけるのは、各部署の所属長なんですよ。やっぱりなにも内情を知らない人事がいきなり口を出して人員を異動させるっていうのは乱暴ですからね。」 まあ、それだけが人事の仕事ではありませんけど、と言いながら人事異動のカラクリを説明する佐藤俊生。 どうやら今回の部署新設に伴う一連の人事異動は、ある程度働いてくれそうな人材を各部署からピックアップして配置することで、色々な部署からの声を直ぐに反映させるのを目的としたものだったそうな。 で、そのふるいにかけられたのがまんまと私だったと言うわけで……。 「えぇ?じゃあ私、開発で、いなくてもいい人員扱いされたんですかあ??」 辞令を受けた時のあの直属の上司の申し訳無さそうな顔を思いだす。あの野郎、困った困ったとか言いながら、人を差し出しやがったな!! 怒りに震える私に、まあまあと宥める佐藤俊生。 「部署から出されたとは言いますが、開発からはかなりの抵抗にあいましてね。実は最後まで誰も出したくないと言われてはいたんですよ。」 おや。あの上司、中々骨があるではないか。 少し溜飲を下げた私の隣で更に佐藤俊生の話は続く。 「……で、難航しているところに、最終的に社内プレゼン大会での玲子さんのスピーチを社長が思い出して、その鶴の一声で人事が決定したって感じですかね。」 そういう訳で、決して要らない人員だから部署を出されたわけではなく、優秀だから目をつけられたんですよ? だから、部署を出されたことは決して悪い意味ではなかったんです。 そう、佐藤俊生は優しく頭をなでてくれたのだった。 ……優秀だと言われて悪い気持ちになる人は、いない。 ご多分に漏れずまんまと私もちょっと自尊心が満たされていい気になってきている。 この説明のどこまでが本当で、どこまでがこの人事部長の優しい嘘なのかはわからない。やっぱり何かあるのではないかと、勘繰りたくなるところもあったりはする。 けれど、彼のくれた甘いアメをとりあえずは額面通り舐めておいて、翌週以降も仕事を頑張ってみるかと、チョロい私は思うのであった。
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