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1. 要注意人物
午後21時30分。熱気が篭ったアパートの一室。汗ばんだ素肌に張り付くシーツが鬱陶しくて、私は壁側に寝返りを打った。
そのすぐ隣には、さっきまで肌を重ねていた男が服も着ないまま、違う女に電話をかけている。
でも、これが私達にとっては普通のこと。だって、付き合っているわけではない。体さえ重ねればいい関係なのだから。
私はベットから体を起こすと、ベッドに置かれたTシャツを着て立ち上がった。
「あれ、亜緒ちゃーんもう帰んの?」
『うん、帰るー』
「もうちょっといればいいのに〜」
『いやいいよー別の女の子呼ぶんでしょ?』
「亜緒ちゃんがいてくれるなら呼ばないよ♪」
『うーん、じゃあ帰るわ』
「何それ!」
『ごめんね(笑)明日も早いからさ』
ちゅっと、彼のほっぺにキスをしてから身支度を始めた。女との電話が終わった彼は、私が着替えている様子をじっと見てくる。
『……ねえ蓮君、見過ぎだよ。気になるんだけど』
「えー見ちゃダメ?」
『うん、ダメ。気になる』
「さっきもいっぱい見たのに?」
『そういう問題じゃないんだって』
「亜緒ちゃん可愛い」
『はいはい』
私と蓮は、いわゆるセックスフレンドってやつで。適当な日に適当に連絡して、時間が合えばセックスするだけの関係。たまに一緒にご飯を食べに行くこともあるけど。ただ、それだけ。
蓮とは、友達伝いで知り合って、すぐに意気投合した。
同い年で、お互い社会人だから仕事の愚痴で盛り上がり…それこそ、最初は気の合うただの友達って感じだった。
でも、何人かで行った飲みの帰りにホテルに行く流れになってしまい、それ以降今の関係を半年は続けている。
でも、お互い他にもセフレは何人かいる。蓮と私は体の相性が良いから、特に会う回数が多いだけ。
「亜緒ちゃんさ、まだ彼氏作らないのー?」
蓮は、茶髪のセットが崩れた髪の毛をいじりながら鏡越しにそう問いかけてきた。もうこの質問何回目よ。
『作らないよ、面倒だし』
「相変わらず冷めてるね〜」
『1人が好きなの。蓮もそうじゃん』
「確かにね(笑)まあ、そっか。それに亜緒ちゃんは昔のトラウマが……」
『蓮くーん?それ言わないでってば。思い出したくないの』
「あー!ごめんごめん(笑)怒らないで?」
『無理ー』
ヘラヘラ謝る蓮を睨んでから、ズボンのベルトを締めた。
別にトラウマってほどでもないけどさ。高校の時、付き合ってた彼氏に盛大に浮気されてたってだけだ。まあでも、私が恋愛に冷めた原因はそれかもしれない。
私ももう23歳。その彼氏と別れてから5年は経っているけど、新たに恋愛したいという気はサラサラ起きていなかった。
1人でいい。独りが楽。でも、人肌恋しい時はある。そんなワガママを埋めてくれるのが、この都合のいい関係。
私は、もうずっとこのままでいいかな。
「あーおーちゃん」
『うわっびっくりした』
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