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そして、やっと辿り着いた病院。
着いた頃には、制服のシャツも透けるほど汗だくになっていた。
一目散に先輩の病室へと向かう。
目の前まで着いた時、ちょうど病室から看護師さんが出て来る所だった。
『…っあ!あの!!私、香坂優の…』
〔…あ!香坂さんですね〕
『はい!あの…彼は…大丈夫なんですか!?』
〔中に先生がいますので、お話を聞いてください〕
それだけ言って、神妙な面持ちで看護師さんは去っていった。
冷や汗を垂らしながら扉を開けると、中に担当医の先生がいた。
『あ、あの…』
恐る恐るベッドへ近付くと、寝巻きの胸元を開けられていて、たくさんの器具をつけられた先輩の姿があった。
でも、目は閉じたまま。不規則な機械音が病室に響いている。
〔…先ほど、容態が急変しました。処置はしましたが、思ったよりも深刻かもしれません〕
『……え』
〔処置をして落ち着いても、すぐに急変するという状態が続いています。もう、長くはないかと…〕
『……そ、んな』
〔私は一旦席を外します。すぐに戻りますので、声をかけてあげてください〕
そう言って、先生は部屋を出ていった。
嘘だ。長くない…って?
今にも目を覚ましそうな顔で寝てるのに。
もう、先輩は目を覚まさないの…?
『…なんでっ、優先輩、ねぇ!起きてよ!』
ついに、先輩の目の前で涙が零れ落ちた。ボタボタと先輩のベッドに涙が染み込んでいく。
でも、どれだけ叫んでも泣いても…優先輩にはもう通じないのに…。
分かってはいても、涙は止まらない。
『あんな…っ薔薇の花束を会社に送ってどうするの!!うれしいけど…手渡してくれないと…っ!怒りたいんだから、起きてよ先輩!』
「………」
『ねぇ、せんぱ……っ』
……え?
嘘。そんな…。
「………っあ、おちゃ」
『………っ』
本当に…?先輩が…目を…
『…ゆう、せんぱ、、』
「…亜緖ちゃん、初めて、僕のために泣いて…くれたね、」
『………っうっ、もう』
信じられない。先輩は、ゆっくりと目を開けて、私の方に視線を落とした。
よかった…、目が、覚めたの?
やっと、目を覚ました…?
篭った声で、力なくそう呟くと、目を細めながら先輩は嬉しそうに微笑んだ。私は、ゆっくりと頬に伸ばされた先輩の手を優しく包み込む。
『そりゃ、泣きますよ…っ先輩のバカ』
「………亜緖、ちゃん」
『……うっ、』
「……愛してくれて、ありがとう」
『……え?優先輩』
ピーーーーーーッ
『……え?』
〔失礼します!香坂さん!聞こえますかー?薬入れますよ!〕
〔急いで!〕
さっきの安堵感から一変。突如、激しく鳴り響く電子音。バタバタと駆け回る先生と看護師さん達。
なんで…?さっき先輩は目を覚ましたんじゃ…。
〔吉舘さん、離れてください!〕
『……っあ、先輩、!!なんでっ』
体に力が入らず、看護師さんにベッドから引き離された。私の声になってない叫び声も、周りの音に埋もれて消えてしまう。
『起きて!!ねぇ、先輩!嫌だ!ねぇ!』
「……っ亜緖ちゃん、」
嫌だ、やめて。聞きたくない。
お別れの言葉みたいに言わないで。
こんなの嫌だよ。
だって、私達はこれから…っ、
「……愛してるよ」
『優…っ!!!』
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