9. 伝えたいこと

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そして、やっと辿り着いた病院。 着いた頃には、制服のシャツも透けるほど汗だくになっていた。 一目散に先輩の病室へと向かう。 目の前まで着いた時、ちょうど病室から看護師さんが出て来る所だった。 『…っあ!あの!!私、香坂優の…』 〔…あ!香坂さんですね〕 『はい!あの…彼は…大丈夫なんですか!?』 〔中に先生がいますので、お話を聞いてください〕 それだけ言って、神妙な面持ちで看護師さんは去っていった。 冷や汗を垂らしながら扉を開けると、中に担当医の先生がいた。 『あ、あの…』 恐る恐るベッドへ近付くと、寝巻きの胸元を開けられていて、たくさんの器具をつけられた先輩の姿があった。 でも、目は閉じたまま。不規則な機械音が病室に響いている。 〔…先ほど、容態が急変しました。処置はしましたが、思ったよりも深刻かもしれません〕 『……え』 〔処置をして落ち着いても、すぐに急変するという状態が続いています。もう、長くはないかと…〕 『……そ、んな』 〔私は一旦席を外します。すぐに戻りますので、声をかけてあげてください〕 そう言って、先生は部屋を出ていった。 嘘だ。長くない…って? 今にも目を覚ましそうな顔で寝てるのに。 もう、先輩は目を覚まさないの…? 『…なんでっ、優先輩、ねぇ!起きてよ!』 ついに、先輩の目の前で涙が零れ落ちた。ボタボタと先輩のベッドに涙が染み込んでいく。 でも、どれだけ叫んでも泣いても…優先輩にはもう通じないのに…。 分かってはいても、涙は止まらない。 『あんな…っ薔薇の花束を会社に送ってどうするの!!うれしいけど…手渡してくれないと…っ!怒りたいんだから、起きてよ先輩!』 「………」 『ねぇ、せんぱ……っ』 ……え? 嘘。そんな…。 「………っあ、おちゃ」 『………っ』 本当に…?先輩が…目を… 『…ゆう、せんぱ、、』 「…亜緖ちゃん、初めて、僕のために泣いて…くれたね、」 『………っうっ、もう』 信じられない。先輩は、ゆっくりと目を開けて、私の方に視線を落とした。 よかった…、目が、覚めたの? やっと、目を覚ました…? 篭った声で、力なくそう呟くと、目を細めながら先輩は嬉しそうに微笑んだ。私は、ゆっくりと頬に伸ばされた先輩の手を優しく包み込む。 『そりゃ、泣きますよ…っ先輩のバカ』 「………亜緖、ちゃん」 『……うっ、』 「……愛してくれて、ありがとう」 『……え?優先輩』 ピーーーーーーッ 『……え?』 〔失礼します!香坂さん!聞こえますかー?薬入れますよ!〕 〔急いで!〕 さっきの安堵感から一変。突如、激しく鳴り響く電子音。バタバタと駆け回る先生と看護師さん達。 なんで…?さっき先輩は目を覚ましたんじゃ…。 〔吉舘さん、離れてください!〕 『……っあ、先輩、!!なんでっ』 体に力が入らず、看護師さんにベッドから引き離された。私の声になってない叫び声も、周りの音に埋もれて消えてしまう。 『起きて!!ねぇ、先輩!嫌だ!ねぇ!』 「……っ亜緖ちゃん、」 嫌だ、やめて。聞きたくない。 お別れの言葉みたいに言わないで。 こんなの嫌だよ。 だって、私達はこれから…っ、 「……愛してるよ」 『優…っ!!!』
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