右衛門佐局

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「宮さんにご縁組──。されど、宮さんは昨年お産まれにならしゃったばかりですのに」 「貴人の世のご縁組にお(よわい)は関係ありませぬ。大事なんはご身分とお血筋、家同士の利益だけにございます。 そもじを此度 中臈にお格上げにならしゃったのも、八十宮さんの母御前であるそなたさんの体裁を整える為かと」 「……されど、いったい、どこの公達(きんだち)さんが宮さんと?」 「公達にあらず。お相手は、関東におわしゃる徳川の公方(くぼう)、家継さんやと聞いておりまする」 「徳川の公方さんに…!? それはつまり、御皇女たる宮さんが、武辺のお方にお輿入れならしゃると !?」 「決まれば、そういう事になりましょうな。公武合体(こうぶがったい)と言わしゃるそうな」 「公武合体…」 寝耳に水の話に伊勢は動揺を隠せなかった。 「そんな、宮さんがこの京の都を離れ、よりにもよって、関東の代官さんの所へ参らはるなんて……何とも(ひど)い!」 伊勢は思わず叫んだが、染の井は至極平静だった。 「そうお嘆きあらしゃるな。八十宮さんが、徳川の公方さんの御台(みだい)さんにならしゃれば、武家と朝廷との間に太い管が出来、 朝廷の(まつりごと)が今まで以上におするすると進むはずや。公家方が政に介入し、幕府を裏から操る事の出来る、絶好の好機にござります」 「されど…」 「それにものは考えようえ。そもじは八十宮さんのご生母にあらしゃるのやから、今後(こんのち)は、今よりもおよしよしに遇されまひょう」 実際にどのような厚遇が待っているのかまでは分からなかったが、伊勢にはどうしても確認しておきたい事があった。 「おくもじ(畏れ)ながら」 「何え?」 「もしも…、もしも宮さんの関東とのご縁組が決まりましたら、うちは母として、八十宮さんのお側に置いてもらえるのでしょうか?」 「宮さんのお側に?」
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