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そんな状況が長らく続き、気付けば季節は夏になっていた。
そんなある日の夜の事だった。
大奥の将軍御座所にて、家継が夕餉を済ませ、お付き女中たちと共に寛いでいると
「──失礼致しまする」
座敷の中に、お付き中臈・松浪を引き連れた瑞春院が入って来た。
松浪の手には、それは瑞々しい西瓜が乗せられた盆が握られている。
瑞春院は、上段に座す家継の傍らに座すと
「上様。今宵は食後のお口直しに、尾張家より三の丸へ献上されました西瓜をお持ち致しました」
「…西瓜」
「はい。上様にも召し上がっていただきとうて。──松浪」
「はい」
瑞春院は松浪に命じて、一度お毒味役に吟味させてから、西瓜を家継の御前に差し出した。
美しい白磁の器の中に、鮮やかな紅色の西瓜が、食べやすく正方形に切り分けられた形で盛られている。
当たり前の事ではあるが、西瓜の表面には、幾つかの黒い種が付いていた。
家継はそれを目にするなり、思わず眉をひそめた。
「──上様。ささ、どうぞお召し上がり下さいませ」
瑞春院は勧めるが、家継は固く口を閉ざし、俯いている。
「如何致しました? ……よもや、未だ月光院殿の事を気にしておいでですか?」
「……」
「あのような酷い母上など、忘れておしまいなされませ。上様には、この瑞春院が付いているではありませぬか」
瑞春院は、家継の小さな手をとって、上から包むように握り締めた。
「上様。どうぞこの瑞春院を、母と思し召めせ。この私が、上様のまことの母になりまする故」
瑞春院はうっとりと目尻を下げながら、家継に囁きかけた。
その時、家継の胸の奥で、我慢に我慢を重ねていたものが、急にパンッと音を立てて砕け散ったのを感じた。
家継はその細い腕に力を込め、サッと瑞春院の手を振り払った。
「…上様…?」
瑞春院が眉根を寄せると、家継は今にも泣きそうな顔をして、相手を見やった。
「瑞春院さまが、余のまことの母であるならば──なにゆえに、このようなすいかを食べさせようとするのですか!?」
「え…」
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