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母が言うことは、わたしには絶対だった。たとえそれが一般的には理不尽に聞こえる事であっても、母が言うのであればわたしにとってそれはもう「ルール」なのだ。そして、その「ルール」は3つ上の姉ではなく、常にわたしに対して発動されるものだった。
「桜子ちゃんはお姉ちゃんとは正反対ね」
親戚のおじさんおばさんが悪意無く口にする言葉に、わたしはいつも怯えていた。活発で口達者な姉と、無口で人見知りなわたし。外で遊ぶのが好きな姉と、家で一人で本を読むのを好む私。犬が好きな姉と、猫を愛するわたし。
スポーツも運動も抜群によくできた姉に比べて、わたしは本当にダメな子供だった。テストでいい点を取ることも出来なかったし、クラスの係をやってもへまばかりしていた。母と姉はいつもそんなわたしを呆れ顔で眺めていたものだ。
「お姉ちゃんは何でもよくできるのに、桜子はなんでか不器用ねえ」
母はうんざりしたようにそう言って、決まって最後に付け加えるのだった。
「あんたは早くお嫁に行ってちゃんとした旦那さんに面倒見てもらわないとね」
幼少のころから言い聞かされていたその台詞は、食パンに黴が根を生やすように、わたしの心にこびりついていた。それは、年月を経てわたしの人格の一部となり、わたしの人生の指針となった。逆らうなんてことは、つゆほども頭には浮かばなかった。
だから、わたしは自分が付き合う人はちゃんとした会社のちゃんとしたサラリーマンであるべきだと決めていた。それ以外で言えば、清潔感があって、できれば食べ物の好き嫌いがない人。そして、しばらく付き合ったら結婚するのだ。
合コンの後、初めて田村さんに誘われて食事をした時に、どんなタイプが好きなのか尋ねられて「好き嫌いがない人が好きです」と言ったら、田村さんはにっこり笑った。
「僕なんか、どうだろう?」
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