Ⅰ. 桜子

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「いいと思います」  わたしは真面目くさってそう言った。清潔なパリッとした白いシャツを着て、優雅な仕草でパスタを食べる田村さんは、本当になかなか良い感じだったのだ。わたしの言葉に、田村さんは可笑しそうに目を細めた。 「桜子ちゃんは、とても真面目なんだね」  彼は、それがとても好ましいことであるように言った。どうだろう、とわたしは思った。真面目な24歳の女性は、大学生とバンドマンの青年たちと共同生活を送らないのではないだろうか。テレビゲームを眺めながらソファで寝落ちしたり、ふと思い立ってみんなで夜中の散歩に出かけたりはしないのではないかしら。でも勿論、そんなことを言い出して興ざめを誘うようなことをわたしはしなかった。ただ、能う限り穏やかに微笑んでみせた。  家に帰って伊織にその話をしたら、伊織は驚いたように目を見開いて言った。 「へえ、さくらこちゃんの好みがそういうタイプって、知らなかったな」 「タイプ、というほどのものではないんだけどね」  わたしは冷蔵庫からカップのヨーグルトとジャムの瓶を取り出し、足で冷蔵庫の扉をパタンと閉じた。ぷるぷるとしたヨーグルトの上に、駅前の商店街にある輸入食料品店で買ったラズベリーのジャムをたっぷりトッピングする。こんな小さな町の商店街なのだけど、夏には観光客も多く訪れるということで薬局や本屋に紛れておしゃれなお店もいくつかあるのだ。 そのまま、伊織と並んでリビングの万年こたつの前に腰を下ろした。コタツが待ってましたとばかりに膝に飛び乗ってくる。 「食べることと、清潔感は毎日生活していく上で大事でしょ?それさえちゃんとしていれば、そこそこ生きていける気がするし」  そんなもんかねえ、と伊織はあまり納得していない風に言った。 「普通の結婚をするのが目標なの」  わたしは言った。 「誰にも後ろ指を指されない、ちゃんとした人と結婚して、普通の結婚生活を送るのが」
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